まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー


「では、ここに契約を」



イカネさんは、私のカバンから取ったミニテストの裏にボールペンを走らせ、お札を作った。

もっといい紙あっただろうに、雑だね。

召喚の儀式といい、こんなに雑でいいんだ。



『道具で補うか、霊力で補うかの違いですよ。もちろん、どちらも欠けていたら成立はしません』



テスト裏で作ったお札と、一般人に毛が生えた程度の霊力って、欠けすぎだと思うのですが。



『そこは、私が作ったお札ですから』



なるほど。

神様の手にかかれば、ただの残念な結果のミニテストも、強大な道具に早変わり。


お札を受け取った火宮桜陰が、目を閉じて、それに霊力を込めた。



「我、火宮桜陰は、汝との契約を所望す。………応じるなら、名乗れ」



「なまえはない。ご主人様がつけて」



「…………………ヨモギ」



「ヨモギ……。桜陰はヨモギのご主人様!」



美少年ヨモギの身体がほんのり光って、すぐにおさまる。



「契約成立です」



イカネさんが言う。


儀式は終わったらしい。

思ったより簡単だった。



「ヨモギ、オレのなまえ、ご主人様がつけてくれた」



子供らしく跳ねて喜ぶ美少年に反して、主人になった方は自嘲気味だ。



「妖怪を使役することになるなんて、本家の奴らが知ったらまた風当たりが強くなりそうだな」



「神使の子だとおっしゃいなさい。半分は神使の血ですから、嘘にはなりません」



「……ヨモギお前、妖怪じゃなかったのか」



「んー?」



「本人はわかっていないようですが」



「なんでもいいよ。ほら、ヨモギ君がかまってほしそうに先輩を見ていますよ」



「………ほれ、あーん」



火宮桜陰は、少し焦げて冷えた焼きマシュマロをヨモギ君に与える。



「あーん。………んー!」



それを嬉しそうに頬張った。



固くて美味しくはないだろうに、焼きたて以上に幸せそうな顔をしていた。

マシュマロを食べ切ってから、ようやく学校で中断された話題に移る。



「五寸釘の呪いの件だが」



「火宮先輩ファンが犯人のあれですね」



火宮桜陰がさっきまでの戯れが嘘のように真剣な顔をしたので、私も姿勢を正す。

互いの相棒もおとなしく彼の話を待った。



「仕組んだのは、おそらく火宮家の者だ」



それは私も初め、考えたことだ。

でも、お粗末な術だとイカネさんが言っていた。

彼女に呪いの方法を教えた中年のおじさんが火宮家の者ということか。



「……根拠は?」



「あの釘には、相当な呪力が込められていた。一般人が用意できる代物じゃない」



「あの方から、霊力はあまり感じませんでした。道具に頼ったと考える方が自然でしょう」



道具で補うか、霊力で補うか。

火宮桜陰がヨモギ君と契約する時にも言われていたことだ。



「丑の刻参りだとは思うんだ。一般人でも比較的成功しやすい。いい道具を使ったなら尚更」



「それだけで火宮家が犯人と決めつけるのは早くないですか?」



「他の家がお前を狙うメリットがない」



「先輩の味方をする私が邪魔だから……?」



「その線がいちばん濃厚だろうな」



無関係の人を使ってリスクのある呪いを仕掛けてくるなんて、許せない。



「……と、思ったんだが、それにしては日数が足りない」



「そうですね、呪いの完成までに7日はかかります。一昨日存在を知られたばかりの月海さんが今日狙われるとは考えづらい」



「うーん………」



素人の私は考えてもわからない。



「とにかく、用心してくれ。狙われたことに変わりはない」



「そうですね。月海さん、次もわたくしをお呼びください」



「わかった。迷惑かもだけど、次も呼ぶね。忙しいなら……」



「貴方に呼ばれた瞬間から、わたくしは暇になるんです。どこへでも馳せ参じますわ」



うふふと笑う彼女は美しく、そして強い。

私は弱いから、誰かを助けるどころか自分の身も守れない。

焚き火は安定してきたように思う。

だが、焚き火では駄目なのだ。

スサノオノミコトの力を使いこなせるようにならないと。











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