まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
火宮先輩に稽古場に行けないとメールを送り、ひとり部屋で寝込んでいる。
家族は仕事と学校でいない。
「イカネさん」
呼ぶと、金髪翠眼の美女がベッド横に姿を現した。
「月海さん、大丈夫ですか?」
「うん、へいき」
イカネさんの冷気を纏った手がおでこにのせられる。
「手、気持ちいい………」
「わたくしの手で良ければいくらでも」
しばらくうとうとして、時々会話を交わす。
「わたくしを召喚して、身体は辛くないですか?」
「私から呼んどいて、辛いなんて言わないよ。むしろ、イカネさんに会えて元気になった気がする」
「……ふふ、そうですか」
彼女の鈴のような柔らかい声が心地いい。
「お風呂で水の術の練習をしていたでしょう、彼に知られたら怒られますよ?」
「……見てたんだ」
「覗いてはいませんからね」
「うん……」
姿は見えなくても、何をしているかは想像がつく。
扉を隔てた向こう側にいる感覚なのでしょう。
今度一緒に入ろうと誘うことも頭をよぎったが、イカネさんの美ボディの前に私のだらしない身体は晒せないと思いとどまった。
「………月海さん、来客のようですよ」
「客? 誰?」
外を見るイカネさんに問いかける。
放課後の時間だが、自慢じゃないが、私に友達はいない。
学校を休んだからといって、配布物を届けてくれるクラスメイトもいないのだ。
「火宮桜陰です」
「…………もうバレた?」
厄介な奴が来やがりました。
外で術を使うなという言いつけを破ったことを怒りに来たのでしょうか。
でも、言い訳をさせてもらえるなら、マッチ程の火を一瞬つけただけなんです。
水飲み場程度の水も出していません。
「いかがいたしましょうか」
このまま外で待たせて、妹や彼氏君と鉢合わせたらまずい。
帰れと言って帰ってくれたらいいけど、無碍にするのもどうかとも思う。
「………上がってもらいます」
「では、迎えに行ってきますね」
イカネさんが部屋を出てしばらくして、火宮桜陰と美少年ヨモギ君が部屋に入ってきた。
火宮桜陰は怒っている。
「馬鹿が! 高位の式神なんて召喚したら風邪が悪化するだろ!」
第一声がそれですか。
私はベッドの上に立ち、先輩を見下ろす。
「私はイカネさんに元気をもらってますから! 看病もしてもらって、むしろ早く治ります!」
「勘違いだ。……お前、この初心者に召喚にかかる霊力のこと教えてないのかよ」
「私のイカネさんをお前呼ばわりとは何事か!」
あぁ、大声出して頭痛い………。
急に立ったから立ちくらみも……。
でも譲れないのだよ。
「月海さんがわたくしを召喚することは、息をするようなものですわ」
彼女は微笑んで堂々と言い放つ。
つまり、簡単だということ。
確かに、名前を呼んだだけで来てくれるので、大変なのはイカネさんの方だと思う。
「高位の式神を呼んで、召喚を維持するなんて、そんな簡単に出来ることじゃねぇだろ」
「それができてしまうのが月海さんです」
「…………つまり、スサノオノミコトの力ってことか……」
イカネさんは、微笑みを絶やさない。