まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
彼の視線の先、私の胸元にあるのは、お土産屋で少年が買うような剣のキーホルダーをネックレスにしたものだ。
「モチーフは十握剣。スサノオノミコトにピッタリだろう」
違いは、巻き付いているのが龍ではなく勾玉だということか。
お陰で少しだけ可愛らしい仕上がりとなっている。
「徹夜で作ったんだ。ありがたく思えよ」
「………どうも」
先に言われるとありがたみも薄れるというもの。
「でも、なんでいきなり剣なんて……」
もしかして、一度は見限った接近戦を教えてもらえるのでしょうか。
「媒介があるほうが力を使いやすい。コノハナサクヤヒメもそうだったろ」
コノハナサクヤヒメの生まれ変わりである私の妹は、火宮桜陰の弟である彼氏君からもらった花を変化させていた。
「高位の式神を召喚して疲れないのは、余裕があるから。なのに、術の行使ができないのは、うまく放出できないからだと考えた」
何もないところから花を咲かせるより、花を成長させる方が簡単だと言いたいのだろう。
「お前の式神のお札で俺がこいつと契約できたように、道具のあるなしでだいぶ変わる」
火宮桜陰がケモ耳美少年の頭を撫でた。
契約に使えるほどの霊力を持ち合わせていない先輩が、狼と狐のハーフ、後にヨモギと名付けられたケモ耳美少年と契約したのだ。
その時に使ったのが、イカネさんが私の残念な点数のミニテスト裏で作ったお札である。
「形は剣だが、杖のようなものだと思ってくれ。……好きだろ? 魔法少女」
魔法少女が好きとか、ひとことも話したことはないのだが。
ああでも昔、それこそ幼い頃に、魔法少女のアニメが好きだった時代はあった。
女児のほとんどに当てはまると思う。
おもちゃの杖をおねだりしたり、妹が買ってもらった衣装をこっそり着たり。
………衣装を着ても、私は本物の魔法少女じゃないから、変身できなかった。
妹のような美少女にはなれなかったのは苦い思い出だ。
「それはさておき、だったらなぜ、初めから道具をくれなかったのか」
「しかたないだろ、陽橘は素手なんだから」
弟君は、火の鳥を召喚しながら火の龍を作っていたな。
素手であれをやるとは、羨ましくもあり、悔しい。
「使えるものはなんでも使え。遠慮も配慮も不要だ」
先輩に教えてもらう手前、火炎の術以外に抵抗はあった。
彼はそれをとっぱらえと言っている。
「そいつに神力を流してみろ」
言われた通りに、手のひらにのせた剣のストラップに力を注ぎ込むイメージをする。
すると、ストラップサイズの剣が大きくなり、普通の細身な剣になる。
首飾りには勾玉だけが残った。
「わぁ、すごい………」
ほんとうに魔法のステッキのようだ。
「俺様とお揃いだ。嬉しいだろ」
火宮桜陰も、自身の首にかかったネックレスの刀を大きくさせた。
それは彼の愛刀によく似ている。
悪いとは言いませんが、おそろいのどこがよいというのでしょう。
別に、としか言えない。
校舎裏で火宮桜陰に呼び出された際、刀を向けられたことを思い出す。
あの時は、ボタンを引きちぎって刀を作っていた。
当時やらなかったことを今やるという事は、彼の刀は私の剣と一緒に作ったものかもしれない。
「さあ、訓練を始めよう」
火宮桜陰は切先を向けてきた。
「………え?」
「安心しろ、どんな怪我もヨモギが治す」
「オレが治すよ!」
「………え?」
「痛みを伴わない訓練なんて、生温い。お前には急ぎ強くなってもらわなければならないからな」
「からな!」
瞬間、火宮桜陰は私の顔横すれすれに、突きを放った。
髪が数本、はらりと落ちる。
かれはニヤリと大魔王の笑みを見せた。
「そら、命の危機だ。スサノオノミコトの力を見せてみろ」
「ご主人様、がんばれ!」
「月海さん、頑張ってください!」
「………ええい、ままよ!」
私は剣を正面に構えた。