まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
瞬間、その影が消えた。
斬って消えたのではなく、まるで瞬間移動のように消えたのだ。
『おいおい』
『マジかよ………』
「次、地獄へ行きたい奴はだぁれ?」
私は微笑んでみせる。
目元は前髪で隠れて見えないだろうから、彼らからは歪んだ口元が見えるだけだ。
「この人にナンパしやがった奴、覚悟しなさい」
『ハイッ!』
『サーセンした!』
影は海へと逃げ出す。
火宮桜陰とヨモギ君に迫る奴らに顔を向けると、彼女たちも怯えたように一歩下がった。
「動きが止まった……?」
「ご主人様ー!」
舞うのをやめた火宮桜陰に、ヨモギ君が抱きつく。
よほど怖かったらしい。
影のままだと怖いよね。
神力を込めた剣を空にかざす。
それは月の光を反射して、イケメンとケモ耳美少年を囲む影は水着のお姉さんに。
イカネさんをナンパしていた影は海パンのお兄さんに。
海から出てこなかった影にも、お年寄りから子供まで。
視界に入る影全てに肉体を与えた。
「今夜だけ、特別です」
私は海の上に立ち、剣先を突き立てた。
創造するのは、うねる水龍。
海に浸かっていた影だったものを全て砂浜にうちあげて、海水でウォータースライダーを筆頭に、メリーゴーランドやコーヒーカップなどを作っていく。
いまやここは海上遊園地だ。
「マナーを守って楽しく遊びましょう」
満月を背に浮かぶ水龍の頭の上に立ち、砂浜にいる人たちに、極力優しく見えるよう微笑んでみせた。
といっても、彼らから見えるのは口元のみである。
「満足した方から、極楽へ送って差し上げます」
「………」
「………」
「………」
「わーい! 遊園地だ!」
「おかあさん、あれ乗りたい!」
皆が呆けたように私を見上げるなか、先に動き出したのは子どもたちだ。
私の作ったアトラクションをキラキラした目で見てくれている。
「どうぞ、遠慮なく」
怯えたように私を見上げる親たちに許可を出すと、親は子どもに引っ張られるままアトラクションに乗り込んだ。
定員に達したので、カップやメリーゴーランドを回す。
楽しそうな声に導かれるように、他の者も空中ブランコや観覧車などに乗り込んでいった。
私は、だいぶ見晴らしの良くなった砂浜に着地する。
海側は、各種アトラクションを楽しむ人たち。
砂浜側は、砂で遊ぶ人たちや、ナンパも少々。
困っているイカネさんに言い寄る男どもに近づき、剣をちらつかせる。
過激なものは粛正対象だ。
「すいませんでしたー!」
男どもは逃げ出した。
「大丈夫ですか、イカネさん」
「え、ええ………」
「おい! 俺様も助けろ!」
「ご主人様からはなれろ!」
「いいじゃない、お姉さんと遊びましょうよ」
「かわいいわねー」
「現世での最後の思い出作りに付き合ってあげてください」
少し離れたところでビキニギャルに囲まれている火宮桜陰とヨモギ君は見なかったことにする。
あれはイケメンの勤めでしょう。
水でソファを作って、腰掛ける。
イカネさんを隣に座らせた。