まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
昼休み、私は火宮桜陰の呼び出しに応じていた。
階段裏の死角になるところでコッペパンをかじる。
向かいに座る火宮桜陰も、コッペパンをかじっていた。
そして、私たちの間に会話はない。
用件はおそらく、私の家族が彼の家にお世話になる事についてだろう。
今朝すでに話がまとまっていたようだった。
私と同じ朝帰りの彼が知らないなんてことはないでしょうし、とっとと用事を済ませてくれたらいいのにと思う。
パンを食べ終わり、彼の話を待つ。
彼はお茶を飲んで、逡巡した後、重々しく口を開く。
え、そんなに重い話なの?
「実は昨晩、コノハナサクヤヒメの生まれ変わりが襲われたらしい」
やっぱりね。
もったいぶらずに言ってくれてよかったのに。
緊張で硬くなった体から力を抜いた。
「………驚かないんだな」
「知ってたから」
「何故知っている?」
おや、これは私が疑われているのかしら。
「先輩の弟君にね、ちょうど今朝会って、教えてもらったんです」
「お前ら、いつの間にそんな仲になってたんだ?」
「親しき仲ではないですよ。決して」
「………………まあいい。だったら話は早いな」
先輩は咳払いをして、説明してくれた。
「昨日の夜、コノハナサクヤヒメの家の前に、術が仕掛けられていたんだ。彼女を家に送った際、攻撃に気づいた陽橘が逆探知で犯人を見つけて、当主に突き出した。もちろん、実行犯は破門。それに連なる者も制裁が決まった。犯人はコノハナサクヤヒメを狙うつもりはなかったと言い訳しているらしいが、結果的に次期当主の花嫁が狙われたんだ、当然の措置だな。だが念のため、コノハナサクヤヒメとその家族には、家を修理して守護の結界を張る間、火宮家に泊まってもらう事になった。早速今日から来るらしい」
私は適当に相槌をうつ。
この辺までは、妹の彼氏であり、先輩の弟である火宮陽橘の言っていたことと変わりはない。
「そんな訳だから、しばらく訓練は中止だ」
「なんてこったい」
「仕方ねぇだろ。陽橘とコノハナサクヤヒメが優先的に使うんだと。いつ空くかわかんねぇんだ。近くで待機なんて現実的じゃない」
「確かに。あの人達とはなるべく顔を合わせたくないですね」
「だろ? あいつ、次にお前に会ったら骨も残さず燃やすって息巻いてたらしい」
「こわっ……」
今朝会ったばかりだが、何もなくてよかった。
「安心しろ、任務には連れて行くからよ。実地で学びたまえ」
「お手柔らかに………」
話が終わったところで予鈴が鳴る。
「では先輩、また放課後に伺いますので、よろしくお願いします」
「おい、俺の話聞いてたか? 今日から訓練はないからな。自主練に励めよ。任務があれば連絡する」
「わかりました」
本当にわかっているのかという、疑念の目を背中に感じながら、私は先に教室に戻った。