まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
「何が? イカネさん、何か知ってるの?」
「まずはここを出ましょう」
パフェ代をテーブルに置いて、イカネさんを追ってファミレスを出る。
外は、真っ暗なのに何故か視界は良好という、不思議な感覚。
歩行者も車もいない。
私の通う学校の上空に暗雲が渦巻いているのもわかった。
「なんか、不気味………」
私の呟きを拾ったのか、イカネさんが返事を返す。
「人避けの術ですね。不完全ではありますが………」
人避けって、店員さん達倒れてましたけど。
「本来は、此方側の人を指定範囲の外に誘導して、人ならざる彼方側を炙り出す術ですが、これは範囲内の人を眠らせています。これでは人に被害が出てしまう」
イカネさんの解説中にも、道の真ん中や屋根の上などに現れた黒い靄が次第に形になっていく。
ファミレスの看板くらいの大きさの蛾や、軽トラックサイズの芋虫。
蜘蛛や百足などなど、いろいろ足したようなよくわからないものもいた。
なるほどあれが彼方側ですか。
「ひぃっ!」
何匹かに睨まれて、情けない声が出る。
反射的にイカネさんの背中にしがみついてしまった。
いけない、こんな時に友人を盾にしようとするなんて。
私はイカネさんを庇うように一歩踏み出し、スクールバッグを構える。
こんなものを振り回したところでどれだけ効果があるかわからないけど、ないよりいい。
あんなの相手に戦えるなんて思えないけど、時間稼ぎくらいは……。
せめて盾になって役に立たないと申し開きができない。
私のまだ帰りたくないという我儘のせいでイカネさんは巻き込まれてしまったのだから。
警戒を怠らず、睨んで威嚇する。
だが、逆に彼方側に喧嘩を売ることになったらしい。
私達を獲物と定めた奴らが一斉に襲いかかってきた。
………あ、これ無理なやつだ。
「イカネさん、逃げ…」
イカネさんが手を振り上げると、彼方側の皆さんに轟音とともに雷が落ちる。
「………………えー………」
「月海さん、もう大丈夫ですよ」
天女の微笑みを向けられるも、安心より驚きが勝った。
真っ暗なのに視界は良好という不思議な状態に変わりないが、道や空を埋めるほどにいた彼方側の皆さんは居ない。
雷に撃たれただろうに、焦げた臭いも、焦げた跡もない。
まるで初めからそこに何もなかったかのように、ただ黒い景色が広がるだけだ。
「この空間に残された以上、原因を解消しないと帰ることができません。もとより、使役された神というのは主人のために動くもの」
ああ、そういえば神様だったと今更ながらに思い出す。
「本当は安全なところでお待ちいただきたいところですが、ついてきてくださいますか? もちろん、月海さんはわたくしがお護りします」
それは、イカネさんの側が一番安全ってことだよね。
かといって、頼りきりになるわけにもいかない。
「私も、イカネさんを護るよ!」
平等でないと友達なんて名乗れないでしょ。
さっきは遅れをとったが、次こそは負けない。
スクールバッグをいつでも振り回せるように構えると、イカネさんは苦笑した。
「お気持ちだけで十分です。その想いがわたくしの力になります」
彼女は私の手を取ると、祈るように合わせる。
「ただ、わたくしが勝つと。そう、祈っていてくださいますか?」
「……はい」
綺麗な顔で、真剣な目に見つめられると、肯定以外の選択肢なんてありえないよ。