まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
稽古場が空けばすぐ使えるように、私は与えられた部屋で宿題をしていた。
夏であることに加え、隣の庭に二羽ニワトリがいたとしたら、干物が出来ているくらい、稽古場に入れなかった火の術師複数人が訓練していて余計暑い。
そのくせ、冷房設備の無い嫌がらせ部屋であるが、そこはイカネさんをお呼びして冷風を出してもらった。
部屋の四隅にイカネさんお手製のお札を貼り、結界を張ったので、彼女の存在がバレることはない。
私の部屋の快適さに気づいた隣の桜陰先輩は、今や私の部屋に住み着いていた。
「もうお前ずっとここに住めよ」
真剣な顔で言われても、イカネさんの能力目当てなのはわかっているので無視した。
プライベートがないのは不満であるが、訓練が絡まなければ彼は普通にいい先輩であった。
宿題でわからないところがあれば、向かいに座る彼に聞けば答えてくれる。
お陰で宿題が捗る。
訓練がないので、あざもだいぶ薄くなった。
だが、訓練しないとなると、そのぶん腕は落ちるのだろう。
かといって、部屋で大立ち回りはできないし、外の術師たちと合同訓練などできるわけもない。
加減を間違えれば壁に穴が空くし、私の能力を悟らせるとこは避けたい。
結局は、稽古場が空くのを待つしかないのだ。
そして、数日後。
キャンプ日である今日まで、稽古場が空くことはなかった。
弟君と妹の稽古場風景を偵察してきたヨモギ君は語る。
『ご主人様とそいつとおなじことをしていた』
稽古場の温度は季節に左右されないからな、と先輩は笑っていたが、こめかみはピクピクしているし、たちのぼる霊力が目に見えて鋭利になる。
場所が場所なだけに怒りを必死にこらえているが、言いたいことはわかる。
宿題は部屋でやれ。
もしその日に稽古や任務があれば、対象はトラウマレベルで痛めつけられていたことだろう。
もちろん、私のトラウマとして…………。
ということがありながらの、今日のキャンプだ。
先輩の怒りはどれほど鎮まっただろうか。
ハイエースに荷物を載せ、火宮家4人と天原家4人が乗り込むと、運転手さんが車を発進させた。
運転手さんの後ろに、父親と当主。
その後ろに母親と御婦人、妹と弟君と続き、私と先輩だ。
両親とも、和やかに会話を弾ませているが、前に座る妹と弟君はイチャイチャして、その度に先輩の機嫌が悪くなる。
横目で見る先輩は、外面100パーセントで判断がつきづらいが、間違いない。
間違いなく、お怒りである。
怖すぎて、背筋がヒュッとなる。
人目がなくなったところで発散されるのだろう。
どうかこちらに被害が来ませんように、とペンダントを両手で握りしめ、祈った。