まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
山泊
整備された山道をのぼり、車が止まったのは、立派な二階建てのログハウスの前。
私たちは車を降りる。
「ここが火宮さんの持っている山ですか。立派ですね」
「定期的に来て、整備しておりますからな」
父が褒めると、当主はにこやかにうなづいた。
「空気が美味しいわ」
「ごゆっくりなさってくださいね」
母親同士も親しそうだ。
「ハルくん、なんだか力が溢れてくる……」
「山は咲耶の味方だからね。きっと力を与えられているんだよ」
「てことはアタシって最強?」
「うん、ここでは咲耶が最強だよ。僕のお姫様」
妹と弟君が不吉なことを話していらっしゃる。
コノハナサクヤヒメの生まれ変わりで、植物使いの妹にとって、山との相性はすこぶる良い。
いつぞややり合った日は、万全ではなかったから私が勝てたが、今は相手の有利条件が多すぎる。
せめて近くに海があれば結果は変わるかもしれないけど、スサノオノミコトの力を使いこなせない今の私にどこまでやれるか……。
弟君の火炎の術はすごく強いが、ここは山の中。
火事の恐れもあるから全力は出さないと思われるが、保証はない。
そして、先輩は術はからきしである。
刀一本でやりあうのは無謀としかいえない。
良い悪い以前の純然たる事実である。
親達がどう動くかわからないが、こちらが有利になることはないだろうというのが先輩の見解だ。
ご両親もかなり強い術師らしい。
当主とその妻なら当然なので、驚くまい。
敵対することなく無事に帰れますようにと祈りつつ、先輩に身を寄せた。
「なんだ? お前も俺様に愛されてみるか?」
「からかわないでください」
鳥肌の立った両腕をさする。
こんな時まで冗談を言えるような余裕があるのですね。
バラバラでいるより、固まっていた方が生存率高いと思ったのだけど、一緒にいるのやめようかな。
回ってきた先輩の腕を払い、半歩下がった。
先輩を囮にして真っ先に逃げてやる。
「世話は彼がしてくれるから、なんでも言うといい」
当主の紹介に、荷物を運び終えた運転手さんがお辞儀した。
「昼ごはんは用意してある。皆、建物の中にどうぞ」
当主の案内で、父親、母親達が続く。
最後尾でログハウスに入ろうとした瞬間、弟君が振り返った。
「お姉さんはあっち」
指さされた方を見ると、先輩が細長いナイロンバッグを持っていた。
その周りには、私の荷物と大きめの鍋などが残されている。
「ごめんねー。部屋がないから、桜陰と仲良くね」
目の前で無情にも閉められる戸。
ご丁寧に、鍵のかかった音がした。