まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
戸の向こうからは、私をあざ笑う声がする。
「こんなに広いんだもん。部屋がないって嘘でしょ?」
「いいや? あの人たちが使う部屋がないのは本当だよ」
「キャハハッ、ハルくんもイジワルだね」
「連れてきてあげただけでも感謝してほしいよね」
これ絶対、聞こえるように言ってやがる。
親達の諌める声も聞こえない。
同感ってか。
ログハウスに興味があった。
楽しみにしてたけど、仕方ない。
仲間外れはわかっていたことだ。
だったら連れてくるなって話だけど、仕方ない。
それに、今回はひとりじゃないし。
振り返れば、ただひとりの味方、桜陰先輩がいる。
「残りを持て。行くぞ」
半分以上の荷物を持って先を行く先輩は頼りになる。
食材の入った箱と自分のカバンを持って、先輩について行く。
良い具合にログハウスから離れ、開けた場所を拠点と決めた。
イカネさん特製お札を貼り、簡易的な結界を作る。
これで霊力、神力が外に漏れるのを抑えられるという仕組み。
ついでに認識阻害のおまけつきだ。
外からはこちらが、木々が続いているように見えるだろう。
先輩のカバンに両手サイズのぬいぐるみとして入っていたヨモギ君は美少年の姿をとり、固まった体をほぐしていた。
イカネさんを召喚して、周囲を涼しくしてもらう。
「窮屈な思いをさせて悪かったな」
「いいよ。ご主人様といるためだもん」
「イカネさん、おもてなしできなくてごめんね」
「わたくしは、月海さんに呼ばれるのをお待ちしているのです。その場がどんな環境であろうと、あなたがいるならば馳せ参じますわ」
もうこの人ったら、嬉しいこと言ってくれちゃって。
感動で涙が出てきますわ。
でも、彼らと離れていることでここにイカネさんを呼ぶことができたと考えれば、悪いことばかりじゃない。
と、無理矢理自分を納得させる。
皆で協力してテントを立て、荷物を入れても、四人寝ても十分な広さがあった。
そして、昼ごはんの準備だ。
「まさかこんなところで焚き火が役に立つとは思いませんでしたよ」
「奇遇だな、俺もだ」
食材や鍋はあるが、炭やマッチの用意はなかった。
ささやかな嫌がらせも、我らの手にかかれば造作もない。
野菜をイカネさんが風を起こして食べやすい大きさにカットする。
網の上にそれと肉を置いて、私が下から火をつけた。
炭火のバーベキューがいいのかもしれないけど、致し方ない。
落ちている枝だけじゃ心許ないし。
火力に気をつけて、美味しく焼き上げて差し上げます。
各々が好きに焼いて、食べているところで、私は疑問を口にした。
「いつもテント張って、火おこししてたんですか?」
「いや、むしろ連れ出されなかったな」
「連れ出されなかった方が良かったなんて……」
「ああ。稽古場使えたのに……」
「あー………」
先輩のストレス発散でボコられるのはやだなぁ。
下手したらミンチ………。
いやいや、反撃のチャンスじゃないか。
圧倒的水流で押し流す、大業ぶっ放せば……。
「ご主人様、オレにのってかえる?」
ぶつぶつと打倒火宮桜陰について考えていたら、ヨモギ君が堂々と帰宅宣言をなさる。
彼の足なら火宮家に帰るのも苦ではない。
その場合、私はイカネさんのお姫様抱っこでお世話になる。
「そうだな、あいつらが様子見にくることもないだろうし……」
「だったら!」
「だが、万が一もある。それに、木々に囲まれることは悪いことばかりじゃない」
「どういうこと?」
「自然に囲まれることで心身ともに落ち着き、精神統一しやすいんだ。霊力の巡りを意識的に行う事で術を使いやすくなる訓練になる」
「先輩もですか?」
「この刀の切れ味を試してみようか?」
「さーせん」
自身のペンダントに触れる先輩に、即謝罪した。
術を使えない先輩を揶揄ってはいけない。
頭と胴体が分かれてしまう。