まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
「俺は、火を起こすような放出系は使えないが、体内を循環させて身体能力を強化してるんだよ」
「へー」
「本気になれば、ジャンプでこの木のてっぺんまでいける。短距離なら、ヨモギと競争できるくらいには走れると思う」
知らなかった。
とはいえ確かに、人間業とは思えない動きも多くしていた。
それ全て、身体強化のなせる技か。
「身体能力強化と刀だけで妖魔とやりあってきたんだ。決して派手じゃないし、怪我も多いし、家の奴らに認めてもらえないが、能力頼りの奴らに比べて生き残ってきた自負はある」
「火や水みたいに、目に見えるものだけじゃないんだね」
「俺みたいな前衛がいるから、後衛の術者どもは術式を組めるんだ。感謝してほしいところだな」
「ご主人様のこうけんがわからないなんて、かわいそうなやつらだな!」
「ああ。俺がいない討伐で、せいぜい俺様のありがたみを知ればいい」
悪い顔してるなぁ。
「と言いますが、先輩、団体戦の経験はおありですか?」
初めて会った時から、先輩は一人と一匹で戦っていましたが。
「…………お前、誰がお前を守ってやったと思ってる?」
「イカネさんですけど」
「そこの式神は」
「あの程度、わたくしはひとりでも対処できます」
「………」
「ご主人様はすごいよ! オレ、いつもご主人様にたすけてもらってるよ!」
ヨモギ君が先輩に抱きついて肩を叩いた。
本気で落ち込む先輩に気づかれないように、ヨモギ君がこちらを睨んでくる。
怖くはないのだが、美少年にこんな顔させていると思うと、罪悪感が心にグサグサくるんだ。
「そうですね、先輩。他の奴らでは手に負えないから、重要な任務をひとりで任されているんです。すごいです!」
わざとらしいと思いながらも、頑張ってよいしょする。
内情を知らないから、どんな理由で任務が割り当てられたかわからないが、蛾や犬のような姿の大きな奴らと戦って、生き残ってきたのは事実。
火宮桜陰は決して弱くはない。
ただ、火炎の術が使えないだけ。
それが、火宮家の術師として致命的なのだが。
だから毒を盛られたりして、命を狙われたり。
…………ん?
「身体強化って、もしかして、内臓も強くなる?」
「……なんでそんなこと聞くんだ?」
「いや、前に、食事に毒を盛られたって……」
「ああ。暗殺対策で昔から盛られてたから、弱いやつならなんともないよ」
「なんて家だ………」
「でもそうか。身体強化は、毒への耐性もあがりそうだな」
「ご主人様、だいじょうぶ?」
「平気だよ。ありがとな」
先輩は、心配そうに見上げるヨモギ君の頭を撫でた。
「実は食料に毒キノコとか紛れてない?」
「ご心配なく。選別しておきました」
イカネさんが何事もなかったように答えたが、選別ですと?
つまりあったということで。
良い感じに焼けた野菜を口にするイカネさんを見るが、それ以上話すことはないらしい。
にこりとほほえまれて、今日もお美しい。
「お前も、ここで暮らす以上、体を慣らしておいた方がいいんじゃないか? 全部避けるのは難しいぞ」
「せいぜいくるしめ。しなないていどになおしてやるよ」
先輩の悪魔の提案に、ヨモギ君も乗り気だ。
イカネさんは考えるように、一理ある、とつぶやいた。
一理あるって……そりゃそうかもだけど。
もう、火宮家やだ。
私の味方のはずのイカネさんを、口車に乗せるなんて。
今いちばん欲しいものは何かと聞かれたら、即、安心安全な食卓と答えるわ。
恐る恐る食べる肉は、タレの味すらしなかった。