まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
それからは、夢を見ていた。
「キサマラノタマシイヲクライ、サラナルチカラヲエル」
私に歩み寄る全身火傷の死霊術師。
「キャー! いやっ、来ないで!」
咲耶は力なく萎れた花弁から落ちるように降り、転びそうになりながら山を駆け降りる。
指揮官を失ったアルラウネはなす術なく死霊に駆逐された。
「コノハナサクヤヒメハノガシタカ……マアイイ。コノムスメ、ヨワソウダガ、ワガヘイタイニシテヤロウ。コウエイニオモウトイイ」
瞬間。
私の頭に伸びてきた腕を切り落とす。
「ッッ!」
彼は後方に跳んで距離をとった。
「オマエ、ナニモノダ!」
私は、ペンダントを変化させた剣を手に立ち上がる。
「残念、胴を裂くつもりだったのだが」
すぐ側に落ちていた彼の腕に剣先を沈め、塵とする。
「人の身にして、ここら一帯の死霊を束ねるその能力。称賛に値する」
「ヒルムナ、イケ!」
死霊の群れが一斉に襲いかかってくる。
動くまでもない。
月光に照らされるだけで蒸発霧散。
「だが、私には届かない」
「クソッ」
次に彼は嘆きの声を発する黒い炎を放ってくる。
「怨嗟の炎か。………死霊を贄として、威力を上げたところで、所詮はその程度」
手をかざして、握ると炎は消えた。
「くだらないことに使われてかわいそうに」
「ウソダロ! ワガサイコウノジュツガ、アカゴノテヲヒネルヨウニ!?」
「罪なき赤子の手をひねる方が難度高いよ。お姉様に叱られてしまう」
月がより一層輝く。
「せめて、苦痛を与えず送ろう」
炎を消した手をそのまま月へかざすと、空から降る銀色の光の柱が山一帯を包み、死霊を全て黄泉の国へと誘う。
光が収まると、孤立無援の死霊術師は背中を見せて、逃げを打つ。
「遅いよ」
彼が何かする前に、重力でその場に押し潰す。
半分ほど地面にめり込んだ、潰れたカエルのようなそれの横に立ち、剣を振り上げる。
「ヒイッ! ヤメテクレ! ナンデモスル! カネデモナンデモッ…!」
「言い訳なら、あの世で聞こう」
剣を振り下ろす瞬間、横からの強い衝撃。
剣は私の手を離れ、遠くに刺さる。
「テメェ何してやがる!」
地面に仰向けで押し倒され、月を背にした彼に耳元で怒鳴られた。
「このバカ! 人殺しをさせるために剣を与え、鍛えてやったわけじゃねぇぞ!」
「……………」
驚きで目を見開いている間に、重力の術が切れ、死霊術師は逃げおおせた。
まあいいさ。
いつでもやれる。
今はせいぜい生き残れたことに安堵するんだな。
それから、追われる恐怖を感じるがよい。