まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
「おい、こっちを見ろ」
「なんだい。……さっきはよくも邪魔してくれたね」
「………お前、あいつじゃないな」
「あいつって、どいつのことさ?」
「わかりやすく瞳の色変えやがって。………ったく、手のかかる」
「瞳の色……そうか………」
「月の光のような綺麗な銀色だ」
「ありがと」
「お前は話のわかるやつか?」
「どう思う?」
「めんどくせぇ。……月海、いい加減、目ぇ覚ませ」
「嫌だなぁ、せっかく出てきたのに」
「やかましい。力だけ差し出して引っ込んでろ」
「酷いこと言うね。私が誰か、わかって言ってるのかい?」
「ツクヨミノミコトだろ」
「正解。……わかってて言うんだ」
「スサノオノミコトじゃなかったのは驚いたがな」
「月が綺麗だから、私が出たんだよ。近くに海もないしね」
「神様は、直接介入しないんじゃないのか?」
「この子、意識飛ばしてさぁ。私が出てこなかったら殺されてたよ?」
「そうかよ。じゃあ、俺様が来たから安心して帰れ」
「やっぱり酷い人」
私は彼の腕を掴み、体勢を入れ替えた。
寝転ぶ彼を跨ぐように立ち上がると、すかさず手首を掴まれた。
「おい、その体は置いていけ」
「否。神使と、コノハナサクヤヒメとなかなかの術師の接近を確認」
私の視線の先を追うように、体を起こした彼も見る。
「うちの次期当主をなかなか扱いとは、手厳しい」
「コノハナサクヤヒメも、神界にいた時分より大分弱いな」
「おいおい、本来の力はあれ以上ってのか………」
「私の方が強い」
「さすが、三貴神は言うことが違う」
「きみが次期当主というあれよりも、きみの方が強くなるよ」
彼は目を見開いたが、すぐに苦笑した。
「………嬉しいことを言ってくれる」
「事実だ」
「…………元気出た、ありがとな」
「……そうか。じゃあ私はもうしばらくここにいようかな」
「いや帰れ」
「逃したあれを仕留めに行きたいんだが」
「………コノハナサクヤヒメが陽橘のとこにきてよかったよ。お陰でお前を止めにくることができた」
「チッ。………まあいいさ、私が手を下すまでもないようだからね」
言葉の意味を測りかねた彼が、口を開こうとしたのを遮る。
「まあまあ楽しかったよ。また会おう」
握手から、彼を引っ張り立ち上がらせる。
「二度と来るな」
「つれないな」
「………っくそ」
胸ぐらを掴まれて、力任せに唇を合わせる。
「イケメンからのキスだぜ、嬉しいだろ」
一気に正気に戻った私は、身体強化を使って、先輩の顎にアッパーを決めた。
初ヒットだ。
いや、手応えはない。
当たる前に自身で跳んで、勢いを殺したか。
綺麗な放物線を描く先輩は、体操選手のようなひねりを加えて着地。
到着したばかりの中型犬ヨモギ君は惜しみない拍手を送った。