まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
当主は、跡形もなくなるそれを無感情で眺めた。
「………………恩を仇で返しおって。最期まで邪魔な奴であったよ」
手間をかけさせおって。
当主は、火置が逃げてきた方向を見極めるように鋭い視線を向ける。
「この強大な神力……ツクヨミノミコトが現れたか」
顔を拝んでやろう。
足を向けてすぐ、ツクヨミノミコトの肌を刺すような神力が感じられなくなった。
「帰ったか………」
神がこの世界にいる方法は二つ。
生まれ変わりか、人間に召喚されるかだ。
もし生まれ変わりなら神力を纏っているから、視れば分かる。
見分ける眼を持った、我が眼は誤魔化せない。
ここ最近では、コノハナサクヤヒメとスサノオノミコト以外の生まれ変わりに出会っていないと断言できる。
スサノオノミコトの生まれ変わりは、コノハナサクヤヒメの生まれ変わりの親戚披露の後、一度も姿を現していない。
桜陰の奴、逃げられたようだな。
役立たずめ。
生まれ変わりは、そうそう出会える者ではない。
つまり、ツクヨミノミコトは、召喚されてきたのだ。
誰が召喚したかはわからない。
だが、火宮家所有のこの山に今いる人物は限られている。
火宮本家の四人と、天原家四人、部下一人の、合計九人。
今の時間に外にいるのは、野宿している出来の悪い息子と、天原姉。
加えて、彼らで遊びに行った陽橘とコノハナサクヤヒメの生まれ変わりだ。
ツクヨミノミコトの召喚となれば、出来の悪い息子と、天原姉は除外していいだろう。
必然的に、陽橘か、コノハナサクヤヒメの生まれ変わりが召喚したということになる。
我が息子ながら誇らしい。
結論が出たところで、自身の冷静な部分が待ったをかける。
出来の悪い息子は、スサノオノミコトの生まれ変わりを味方につけていた。
もしかしたら、桜陰が召喚に成功したのかもしれない、と。
霊力の弱い桜陰が、最高位の式神の召喚など出来るはずがない。
火置のように侵入してきた者の仕業かもしれない、と。
「………チッ」
当主は木々の隙間から月を睨んだ。
「いずれ、相見えることもありましょう。その時は、ぜひ我が火宮家で囲わせてもらう」
草木は関心を持たない。
ただ、静かに、月だけがみていた。