鬼が恋した娘、鬼に恋した娘【完】
「なんだ? なんでも言ってくれ」
「――あなた方を頼れば、私は強くなれたりしますか?」
「……うん?」
脈絡のわからない話題に、首を傾げる冬芽。
一方、少女は鬼気迫る顔だ。
「私、強くなりたいんです。死ぬのができないなら、せめて強くなりたい――」
強く。
それは身体的な意味なのか、心情的意味なのか、冬芽にははかりかねた。
なんと返そうか考えていると、少女が、あ、と声をあげた。
「そういえばなんでそんなお面つけてるんですか? 鬼だから?」
「まあ、鬼だからだ。俺は一族の頭領でね。顔は知られていない方が、今は都合がいいんだ」
「鬼の世界も大変なんですね……。なのに私ときたら……」
少女が自戒するように目を細めた。
「疑問だったんだが、迷わされたと言っても、人の住む場所から迷わされた例は過去にない。あなたは自分の意思でここへ――山へ入ったのか?」
冬芽の問いに、少女は視線をさまよわせる。
「……――、そ、その……」
「うん」
だが、誤魔化せないと思ったのか、ようよう口を開いた。
「……死のうと、思ったんです……それで、適当にもう帰れなさそうな山に入って……」
死のうと思った。
それで先ほどの発言になるわけか。
「何か……あったのか?」
「ありました。ずーっとありました。何度死のうと思ったかわかりません。そのたびに踏みとどまってはいましたけど……なんかもう、全部どうなってもいいや、って……」
それで、ここへ……少女はそう続けた。
なるほど、冬芽は合点がいった。
そうして心身ともに弱っているときに、何かにつけこまれてしまったのだろう。
今のところ少女に何かが憑いていたりはしないから、ほんの遊び心で、それに付け入られてしまったようだ。
これでは、冬芽に出来ることは少女を無事に人の世に返すことだけだ。
「あなたの名前は?」
「う、梅乃(うめの)、です……」
「俺は冬芽という。先ほど言った通り、同胞を助けてくれた礼を、あなたにしたい。ともに来てくれないか」
冬芽は、戸惑う梅乃の手をつかんで歩き出した。
それまで、追いついても姿を隠していた側近が姿を見せ、苑の治療のために先に戻ると言って姿を消した。