2ねんせいの夏。
『…あれだよあれ、
蝉は一週間の命なんだからかわいそうでしょ、逃がしてあげなさい、とか、親が蝉採ってきた子供に言うんだよ。』

貴が言う。

『あぁ、あれな。
子供が採ってきた蝉の鳴き声に迷惑した親が言う、
“蝉の命は短い”論ね。』

父が言う。

『うわっ大人の事情出すなよ。』

貴が言う。

『でもまぁ、虫かごの中で暮らすより、外の世界にいるほうが、ちょっとは長生きするだろうし、大人の事情は蝉の寿命を延ばしてるんだろ?』

父が言う。

『俺ら何話してんだか…。』

貴が言う。

『あぁ…』

父が言う。

青空の下、親子の沈黙が続く。

『蝉…』

貴が呟く。

『なんだ?やっぱり採りに行くのか?』

父が言う。

『違うよ!ついこの間までの俺がもし蝉だったら、七日間何もしないで死んでったのかなぁなんて思って。』

貴が言う。

『何もしないで?』

父が聞く。

『迷って迷って答えも出ずに、無駄な時を過ごし鳴くことすらしないで土にかえる…』

貴が言う。

『土にかえる…ねぇ。
父さんはそうは思わない。』

父が言う。
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