2ねんせいの夏。
大切なものを失うのは
一度でじゅうぶんでしょ?

中学3年のとき、貴は修に質問された。
『卒業したらどうするの?』
『高校行くでしょ。それ、中学生の質問じゃねぇよ?』

修が高校に行かず、働き始めたのを知ったのは高1の春。

両親の反対を押し切って、家を出た。
諦めて仕事の世話をするという両親と祖父に、出来るだけ他人、遠い知り合いを紹介してくれるよう頼んだ。
結局、隣街に落ち着き、働き始めた工場は、事情をよく知る親戚のおじさんのところ。
高校には行ったほうがよかったんじゃないかと言うおじさんに、そのうち行きますからと言ったことは、両親には内緒だった。

家ではいい子だった修は、学校や友達の前では、お調子者キャラだった。

たまに何か真剣に考え事をする横顔は、まったくの別人のようだったが…

働き始めて数か月、季節はすっかり夏だったが、働く修には夏休みという言葉はなかった。
おじさんの慌てた様子を見たのはある日の事。

修の顔を見るなり、
『あっち行ってなさい』
の、一言を修は聞かなかった。

優しいおじさんの慌てぶりから、何かあることは分かり切っていたから。


『おじさん?どうかした…』
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