彫刻
葉書
黒川は、ケロさんからの連絡を待つ間、日を追うごとに増え続ける「体験者」からの情報の処理に追われていた。

「編集長、どれもこれもだめですねぇ。今日なんか、すいません子供のいたずらです。なんて親に謝られちゃいましたよ。ねぇ、編集長、聞いてます?」

「スミちゃん、ちょっとこれ」

編集長も寄せられた情報に一通り目を通していたのだが、ある一枚の葉書を黒川に差し出した。

葉書は、ある田舎町の46歳男性からのものだった。裏にはこう書かれていた。

生前、私の父は、人と目を合わせることをひどく怖がっていました。何度理由を聞いてもいっさい教えてくれなかったのですが、先日亡くなる直前に、枕元で、かっ、と目を見開き「不意にやってくるぞ、気をつけろ」こう言ったのです。この言葉と、そして、あの時の脅えたような父の目が頭をいつまでも離れません。目を合わせるのを怖がった理由となにか霊的な関係があるように思えてならないのです。雑誌で取り上げられるような『恐怖体験』とは少し意味合いが違うとは思うのですが、これが私の体験、いや、私から見た父の体験談です。

黒川は思わず飛び上がってしまった。その勢いで椅子が後ろの壁にぶち当たって大きな音をたてた。

「やっぱりスミちゃんも何か感じたか。特にたいしたこと書いてへんのやけど、読んだときえらい鳥肌立ってもうたわ」

編集長のカビの生えた勘でもこれには反応したようだ。そもそも、普段から黒川の仕事内容をちゃんと把握していれば反応して当たり前なのだが。

「感じるも何も、わたしが追いかけてる体験者とぴったり一致してるんです」

「例の本物さんやな!え~っと、石、石、・・・つちのこさんやな!」

「い・し・だ・さ・ん!」
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