彫刻
「お葉書に書かれていたお父様のことでお伺いしたいんですが、この、人の目が怖いっていうのはいつ頃からだったんでしょう?」

「私がちょうど出稼ぎで大阪にいるときだったから、20年ほど前ですね。それまではなんともなかったんですが、その出稼ぎから帰ってきたらなんか父の様子がおかしかったんですよ。そのときは気づかなかったんですけど・・・妙に目が泳いでるというか・・・」

「人前を歩くときは異常に猫背になる。違いますか?」

「なんで知ってるんですか?他にもいるんですね、そういう人が・・・」

「石田さんってご存知ありませんか?この村の出身のかたなんですが」

「知ってますよ、私より7歳上の、えっと、えっと石田なんてったっけかな・・・」

「いえ、石田ジンさん、年齢は34歳です」

「あ~、違うかぁ、石田ジン・・・聞いたような気きもするんですがねぇ・・・えっと、それで?」

「その石田さんなんですが、あなたのお父様と同じようなことを言ったんです、わたしに。不意に出くわす、その時はもう手遅れ。と」

「似てますね、で、その意味はいったいなんだったんです?」

「それが、これも同じように絶対話してくれないんですよ。似てるというより、そっくりなんですよねぇ、林さんのお父様と」

「じゃぁ、あなたもまだ何にもわかっていないってことですね・・・あ、気を悪くしないでください。長年の謎が解けるんじゃないかと勝手に期待してしまったもんですから」

痛いところを突かれた黒川は、お茶を飲むふりをして動揺を隠した。
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