彫刻
体験者
その男も、『恐怖』の体験者の一人だった。今でも脳裏に焼きついたあの恐怖が頭から離れることはない。口に出すことさえ恐ろしい体験。口に出せばまた『あいつ』がやってくる・・・。
男の名は、石田 ジン 34歳。しっかり者の妻と小学校へ通う娘を持つ平凡なサラリーマン。なんとか長期ローンで我が家を手に入れ、そこそこ幸せな生活を送っていた。営業部への異動の話を断っていなければ、もう少し裕福な生活も可能だったのだが、ある欠点が邪魔をした。
石田の欠点、人と目を合わせられないのである。営業マンにとっては致命的な欠点である。人と目を合わせることの恐怖、これは体験者である石田本人にしかわからなかった。
自分さえ口に出さなければ知られることはない。知られなければ聞かれることもない。しかし、こんなことで知られてしまうことになるとは、しかも最悪の相手・・・『体験者』を捜す雑誌記者に。
小さな出版社に所属する一人の女性雑誌記者。彼女も『恐怖体験者』を捜していた。寄せられる情報だけに頼らず、行く先々で常に直感というアンテナを張り巡らせていた。
彼女の名前は、黒川 マスミ 32歳独身。容姿は特別美人というわけではなく、ごく平凡なのだが、澄みきったとても美しい目が彼女の「容姿」の評価を数段上げていた。
仕事の評価も非常に高く、大手トップの記者からも一目置かれている。もう絞りきったように見える情報元から、持ち前の粘りでもうひと絞りひねり出す彼女を『粘りの黒川』、みんなそう呼んでいた。
男の名は、石田 ジン 34歳。しっかり者の妻と小学校へ通う娘を持つ平凡なサラリーマン。なんとか長期ローンで我が家を手に入れ、そこそこ幸せな生活を送っていた。営業部への異動の話を断っていなければ、もう少し裕福な生活も可能だったのだが、ある欠点が邪魔をした。
石田の欠点、人と目を合わせられないのである。営業マンにとっては致命的な欠点である。人と目を合わせることの恐怖、これは体験者である石田本人にしかわからなかった。
自分さえ口に出さなければ知られることはない。知られなければ聞かれることもない。しかし、こんなことで知られてしまうことになるとは、しかも最悪の相手・・・『体験者』を捜す雑誌記者に。
小さな出版社に所属する一人の女性雑誌記者。彼女も『恐怖体験者』を捜していた。寄せられる情報だけに頼らず、行く先々で常に直感というアンテナを張り巡らせていた。
彼女の名前は、黒川 マスミ 32歳独身。容姿は特別美人というわけではなく、ごく平凡なのだが、澄みきったとても美しい目が彼女の「容姿」の評価を数段上げていた。
仕事の評価も非常に高く、大手トップの記者からも一目置かれている。もう絞りきったように見える情報元から、持ち前の粘りでもうひと絞りひねり出す彼女を『粘りの黒川』、みんなそう呼んでいた。