彫刻
背丈は120センチほどで、全身が無数の草の葉や、木の枝でくるまれている。顔だけちょこんと出した姿はまるで『蓑虫』だ。おそらく林はこの子の姿を目撃したのだろう。

「き、君は誰?この村の子?」

男の子は無反応だった。と、いうより『生』がまったく感じられない。誰かの悪い冗談で、背を向けている間に人形でも置いたのかとも思ったが、すこ~しづつ歩み寄ってくる。

頭皮の大部分が剥げ落ち、残った部分に生えた髪の毛が、風でゆらゆら揺れていた。青白い血の気のない顔はやせ細り、大きく見開いた目の周りは黒くくすんでいた。

じっとこちらを見ているのかと思ったが、よく見るとまったく焦点が合っていない。目がよく見えていないようだった。

身にまとった『蓑』の下に見える足首は、今にも折れそうなぐらい細く、足は裸足で指が何本かちぎれていた。


ギュィ~ッ、ギュィッ、ギュィ~ッ、ギュィッ

また、さっきの音がした。それは男の子の口元から聞こえてくるものだった。きしみ音ではない、歯ぎしりの音だったのだ。

ギュィ~ッ、ギュィッ、ギュィ~ッ、ギュィッ

小刻みに、あごが左右に動く。

黒川は凍りついたまま動けない。

男の子は目の前まで来ていた。(こっちに来ないで!)心の中で叫んだが声にならない。
< 23 / 43 >

この作品をシェア

pagetop