彫刻
うわさ話
広間で震えが止まらない黒川を、どうしていいかわからない林は、ただ心配そうに見守るしかなかった。

しばらく沈黙が続き、黒川がやっと口を開いた。

「林さん、この辺りに小学生ぐらいの男の子はいます?」

「今はもうお年寄りばかりで、子供は見かけませんね。男の子って、さっきも言ってましたねぇ」

「そうです。あの教室で見たんです、目の前で」

黒川は教室での出来事を詳しく話した。林は正座したまま、一言、一言うなづきながら、じっと聞いている。

「うわぁ~、気持ち悪いですねぇ、蓑虫みたいな子供・・・・聞いたことあるなぁ・・・は!」

林の体が急に固まった。ひざに乗せた両手を硬く握り締め、ぶるぶる震えている。

「林さん?どうかしたんですか?震えてるみたいですけど・・・林さん?」

「あ、あれは本当の話だったのか・・・そんな・・・まさか」

「話って?話って何ですか?林さん」

「その子・・・昔、山で焼け死んだ子供かもしれない・・・」

「なんですって?」

「うわさですよ、単なるうわさ話。でも、絶対記事にしないって約束してくれますか?」

林はやけにうわさ話と強調するが、顔色は真っ青になっていた。

「わかりました、約束します。どんなうわさ話なんです?聞かせてください」

「20年前、大阪へ出稼ぎに行ってたときのことなんですが、この村の出身者がちょうど大阪にいましてね。昔、ここで旅館をやってた主人なんですけど、子供のとき良くしてもらってたもんだから、頼って行ったら快く部屋を世話してくれたんですよ。で、ある晩、その人がわたしの部屋を尋ねてきましてね。退屈しのぎに怖いうわさ話をしてやろうか、なんて言いだしたんですよ。」

林は、ぐっお茶を飲んだ。
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