彫刻
林は、主人から部屋を、ただ同然で借してもらっていたので、たまには酒の相手をしてやろうと思い、快く部屋へ招き入れた。

「そうだな、今から40年ほど前になるかな、わしがあの村でまだ旅館をやってた頃の話しだ。君のところにも、よくうちの客を世話してもらってたな」

「はい、覚えてますよ」

「ある日、団体客にまじって親子が泊まりに来たんだが、あいにく部屋がもういっぱいで、君にところにお願いしたんだ、母親と男の子の二人連れだった」

「もしかして、30過ぎの母親と、病弱そうな男の子ですか?それだったら覚えてますよ」

「ああそうかい、その親子なんだけどねぇ、うちに泊まった団体客と朝早く合流して山へ登り始めたんだが、連れの男の子の息が切れちゃって、途中でついて行けなくなったらしいんだ」

「おの男の子なら想像つきますね、それで?」

「団体さんは、その後のスケジュールがあるし、その母親は、気を遣ったんだろう、子供が調子悪いようだから、また日を改めると言って別れたそうだ。で、親子は、近くの茶店で休んで様子をみてたんだ」

「ところが、茶店で使ってたプロパンが、ガス漏れを起こして突然爆発したんだ。運の悪いことに、プロパンの真横で休憩していた、その親子が巻き込まれて、火だるまになったそうだ」

「そりゃ大変だ。誰も助けなかったんですか?」
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