彫刻
「誰も通らなかったし、店番のばあさんは、火だるまこそはならなかったんだが、かなりの重症で動けないし、誰にも助けてもらえなかったふたりは、燃え盛る炎の中で、もがき苦しみながら転げまわってたんだが、とうとう足を踏み外して崖下へ、ふたり抱き合ったまま転落したそうだ」

「すぐに爆発音を聞きつけた登山客の何人かが引き返してきたんだが、ばあさんはひどい怪我でろくに口が聞けないし、親子はもうとっくに下山してるって思ってるから、結局、店番のばあさんだけ、そのまま病院へかつぎこまれたらしい」

「じゃあ、転落した親子のことは誰も知らないままだったんですね」

「ああ、山火事にでもなってたら誰か気づいたんだろうが、ちょうどそこは岩肌がむき出しの崖だったから、他に燃え移ることもなく、岩の上で遺体だけきれいに焼けてしまったんだろうな」

「そりゃひどい」

「ところがだ、小学校の裏を少し上がったところの物置小屋、知ってるかい?」

「ああ、知ってますよ。何に使われているのかまでは知りませんが」

「何に使われたか知らない?そりゃそうだ、知ってたら大変だ」

「え?どういうことです?」

「当時の駐在さん、覚えてるかい、ずいぶん年寄りの」

「ああ、はいはい」

「あの駐在さんが、事故のあった3日後に、物置小屋の近くで子供の焼死体を見つけたんだ。いや、正確には、まだ物置小屋はまだなかったが」」

「どういうことです?」

「遺体を見つけた駐在さんの報告を聞いて、なにやら、どこかのおえらいさん連中が現場を見に来たそうだ。それで初めて他にも被害者が居たことを知ったんだな、今更そんなこと世間に知れたらえらいことになるっていうんで・・・」

「まさか」

「そう、なにもなかったことにして、そこに埋めてしまったんだ」

「そんな、だって、あれは事故だったんだからしょうがないことでしょ?」
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