彫刻
「問題はその子供の遺体だ、おそらく、崖の途中の岩肌で力尽きた後、転がり落ちたんだろう。焼けただれた体中の皮膚に草や枝が張り付いて、まるで蓑虫のようだったらしい。そんな無残な状態の遺体が3日も経って発見されたなんて、マスコミに知れたら大騒ぎになるだろ」

「それでな、そこに子供の遺体を埋めて、万が一誰かに掘り起こされないように、あの物置小屋を建てたんだ」

「駐在さんや、ばあさんは何も言わなかったんですか?」

「年寄りだから、よく見つけてくれたなんて適当に褒められて、後のことなんか何も知らされなかったんだろうなぁ、事故にあったばあさんも、適当に口止めされたんじゃないか?」

「深夜にその男の子が物置小屋の下から這い出して、母親を探しながら、あのあたりをうろついてるらしいぞ・・・みんな呪い殺してやる。なんていいながらな。・・・怖すぎるだろこの話」

「ちょっと、やめてくださいよ。ほんとですか?その話」

「なんて、こんなこと本当にあったら怖いだろ!ははは、ただのうわさ話だよ。いや、いや、すまん、すまん。君がわしを頼ってここへきてくれてから、急にあの頃が懐かしくなってなぁ。一度こうやって君と酒を飲みたかったんだよ。驚かして悪い、悪い。じゃ、また酒、付き合ってくれよな。おやすみ」

林は、その男の『うわさ話』のすべてを黒川に伝え一息ついた。

「まったく根も葉もない、うわさ話で怖がらせようなんて、大人気ないなと思ってもう忘れてたんですよ。だいたい当事者しか知らないよう話ばっかり、並べてるんだから、冷静に考えたらおかしいでしょ?・・・でも、黒川さんが見たっていう男の子の話を聞いて急に怖くなりました・・・」

「それがもし事実なら、男の子はとんでもない怨霊になってるわね。よく二人とも無事で帰れたもんだわ、あぁ怖い」

「黒川さん、もうこれ以上この事件を追うのはやめましょう。父のことはもう諦めます」

「ほんと、とんでもないのを相手にしてしまってるようですね。林さんはもうあそこに近づくのはやめてください。また何かありましたら改めて連絡しますから」
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