彫刻
「スミちゃん!スミちゃん!おい!しっかりしろ!」

どこかで編集長の声がする。

「スミちゃん!大丈夫か?わしだ!おい!スミちゃん!」

黒川は、目を覚ました。目の前で必死に自分をゆすり起こそうとする編集長の姿が見えた。黒川は思わずしがみついて震えた。

「おい、大丈夫か?スミちゃん。相当うなされてたぞ、汗びっしょりやないか」

昼をとっくに回っているのに、まったく連絡がつかないため、編集長が心配して様子を見に来たのだ。

「編集長、ごめんなさい、夢を見たんです、とても悪い夢・・・」

「はぁ、心配したでほんま。なんぼゆすっても起きへんし、救急車呼ばなあかんのちゃうか思たで・・・あ、管理人さん、大丈夫そうですわ、無理言うて、えらいすんまへんでした」

「ほんとに大丈夫ですね?息してますね?それだったらいいんですけど」

鍵を開けてくれたらしい管理人のおじさんが、玄関口でいやみっぽく編集長にそう言うと、苦笑いしながら引き上げて行った。

わたしが自殺するなどと言って、大袈裟にさわいで無理やり開けさせたのだろう。ただ夢にうなされていただけの私の立場はどうしてくれるのだろうか。

冷蔵庫から飲料水のペットボトルを一本取り出し、腰に手を当てて一気に飲み干した。

「はぁ、やっと落ち着きました。編集長、ずいぶん心配かけてしまってごめんなさい」

「それはどうでもええねんけど、昨日の取材でなんかあったんか?」

編集長は目をそらしながら、掛けてあったガウンを黒川に差し出した。

黒川はやっと自分がまだ下着のままだったことに気づく。
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