彫刻
「おい!大丈夫か?」

そしたら、あいつ、急にきょろきょろして、今度はおじさんに飛び移ったんだ。で、とっさに直感した。俺は「おじさん!自分の顔を照らせ!」って叫んだ。

なんか笑えるだろ、暗闇の中で、男ふたりが、自分の懐中電灯で自分の顔を照らして立ってるんだから。でも、これが、その怨霊から身を守る、唯一の方法だったんだ。

あいつは、明るいところが見えないんだ。懐中電灯の明かりで、俺たちの目を見失ったあいつは、闇の中へ消えていった。

そのあと、ふたりは寄り添うように肩を並べて、俺は自分達の顔を、おじさんは道を照らしながら、なんとか逃げ延びたんだ。おじさんはそのまま駐在所へ知らせに行った。

事件の後、おじさんから聞いた。あの民家の家族も、真っ暗な家の中で、みんな目を繰り抜かれて、ゆらゆらゆれていたって。電源がずたずたに切られてたらしい。ほんと、残酷なやつだったよ。

そして俺たちは、人と目を合わせることができなくなった。そういうわけだ。

「そうでしたか。石田さん、ほんとに貴重な体験談ありがとうございました。わたしが調べた情報と、これで繋がったように思います。そこで、2,3質問なんですが」

「林さんのお父さんは、旅館の主人の依頼で、小屋の修理をしてたって言いましたけど、いったい何の為に?」

「古い小屋だから、もし倒壊でもして、出てきちゃいけないものが出てくるのを恐れたんだろ」

「旅館の主人が、子供を埋めた、もしくは、深くかかわっていた。そう言うんですね」
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