彫刻
終章。檻の中
「今日は本当に、ありがとうございました。久しぶりにいい記事が書けそうです。早急に、文章にまとめてみますので、掲載の前に一度確認してもらいたいんですが、お願いできますか?」

「掲載?それは無理だろうな」

「え?どういうことですか?」

「あんたはまだ気づいちゃいない。本当の恐怖を」

黒川は、石田の意味ありげな言葉にとまどった。情報提供者が、話し終わった後に、発表は断ると申し出るケースはよくあることだが、石田はちょっと違う意味を含んでいるようだった。

「石田さん、わたしがお聞きしていない、本当の恐怖がまだあるんですね」

「なぁ、黒川さん。確か、俺はあんたと始めて会った晩、忠告したはずだよなぁ、でも、あんたぜんぜん聞く耳を持たなかった」

「はい、不意に出くわして、手遅れになると・・・。後悔することになると。おっしゃった通り、わたしは、あの怨霊に襲われ、危ない目にあってしてしまいました」

「危ない目?あれはただの序章にすぎないんだよ。さっきも言ったろ、本当の恐怖をまだあんたは知らないんだって。もう、逃げ場のない、恐怖の檻の中に閉じ込められてるってことを」

石田は、いつの間にか低く沈んだ声に変わっていた。

「あの、わたしのこと、怖がらせようとしてらっしゃいます?冗談なら止めて頂けませんか?もう充分怖い思いをしたんです」

「充分怖い思いを?まさか、笑わせるな。あんたを今日、ここへ招いたのは、あの事件のことを話すためなんかじゃないんだよ」

「どういうこと?ちょっと石田さん!」

「少し前に、あいつがな・・・あの蓑虫少年が、ここへ来たんだよ。大阪でも、どこでも、来るんだよ、あいつは。ククク・・・・でな、お前が見る物は、俺にも全部見えてるぞ。って言うんだ。クククク・・・気持ち悪いこと言うだろ・・・ククク・・・手に負えない化け物だろ?・・・ククク」

「そんな、ばかな・・・」
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