Contact〜再会した初恋の君に〜
今まで経験したことのない緊張感を感じて窓の外に意識を向けていると、車が赤信号で停まる。
運転しだしてからずっと無口だった宏和が私の方へ顔を向けて口を開いた。
「あのさ…。あのカバン…それなりに重みがあったんだけど何を持ってきたの?」
「…お泊りって言われたから、着替えとか化粧品とかを持ってきたんだけど」
「あぁ、着替えと化粧品ね…」
しばらく沈黙が流れたあと、青信号に変わり宏和がアクセルを踏み車を発進させた。
前を向いたままの宏和が再び口を開いた。
「今日と同じ服が嫌なら、一緒に買い物に行くときに買っても良かったのに。いつも持たないようなカバンを持っていたら、周りの人に不審に思われていたかもしれないよ。何か訊いてきた人とかいなかった?」
「ベ、別に誰からも何も言われなかったけど」
「ふーん。それに化粧品だって今はコンビニでも揃えられるから。今度は怪しまれないように手ぶらでおいで。そうか…この際だから、いつでもうちに泊まれるように紗希のものを用意しておくか」
それがいいと言わんばかりに一人で納得していた宏和がハンドルを切ると、あるマンションの地下駐車場に入っていく。
「着いたよ。近くにコンビニがあるから食べ物とか足りないものを買ってから部屋に行こう」
助手席のドアが開き、手を引かれ車を降りる。
宏和のマンションは八神総合病院から車で5分ほどの場所にあった。
不規則な勤務の上、呼び出しもあるから近くに住むことにしたようだ。