《マンガシナリオ》最強SPは、愛しい幼なじみを守りたくて仕方がない
第2話 ドキドキが止まらない
○第1話の続き、煌莉の家、リビング(夜)

気まずいながらも、驚いた表情で蒼を見つめる煌莉。
しかし蒼は、表情ひとつ変えない。

父親「それじゃあ、蒼くん。明日から頼んだよ」

蒼「かしこまりました。煌莉様は、必ずお守りします」

礼儀正しく、父親に頭を下げる蒼。

煌莉「…ねぇ、パパ!蒼がわたしのSPって、どういうこと!?」

父親「そのままの意味だよ。蒼くんの聖リリアナへの転入手続きはすでに済ませてある。明日から、煌莉のSPになるためにアダム科へ通うことになっているんだ」

煌莉「蒼が…アダム科に?」

煌莉(待って待って…。話が唐突すぎて、全然頭に入ってこない)

現状を把握できずにこんがらがっている煌莉の前に、蒼はゆっくりと歩み寄る。

蒼「煌莉様。明日の朝、迎えにまいります」

そう言うと、リビングから出ていく蒼。
再び、家族3人の夕食の時間が再開される。

母親「よかったわね、煌莉。また、蒼くんといっしょになれてっ」

煌莉の肩を優しく叩く母親。

煌莉(ママは、わたしと蒼は仲のいい幼なじみのままだと思っている。…でも、実際は違う。わたしが過去に蒼に振られて以来、ずっと気まずいままだということをママは知らない)

キュッと唇を噛む煌莉。

煌莉(それに…。久々に会った蒼は、わたしが知っている蒼と全然違った)



○(回想)先ほどの蒼と顔を合わせた場面

蒼『この度、新しく煌莉様のSPとしておそばに仕えることになりました』

蒼『煌莉様、お久しぶりです』

蒼と久々に対面した先ほどの場面を思い出す煌莉。

煌莉(『煌莉様』だなんて…、そんな呼ばれ方されたことがない。それに…敬語なんか使っちゃって)

幼い頃の蒼の顔が目に浮かぶ煌莉。
そのときの蒼は、満面の笑みで煌莉を見つめていた。

煌莉(蒼の、あの笑った顔が…好きだったのに)

(回想終了)



○回想前の続き、煌莉の家、リビング(夜)

まるで別人のようになってしまった蒼に、肩を落とす煌莉。

煌莉「…でも、いきなりアダム科に入って、SPなんて務まるものなの?」

難しい顔をして、父親に尋ねる煌莉。

〈アダム科に入ったからと言って、だれでもかれでもSP(シークレットパートナー)になれるというわけではない〉
〈1年生の頃からSPに関する教育を受け、適正を見抜かれた生徒だけが、2年生になってようやくその資格を得ることができる〉
〈そのため、2年生の途中で転入してきて、いきなりSPになっという話は、これまでに例がなかった〉

すると、父親は不思議そうな顔をして煌莉を見つめる。

父親「蒼くんから、なにも聞かされていなかったのか?」

その言葉に、キョトンとした顔を見せる煌莉。

煌莉(パパも、過去にわたしが蒼に振られたことは知らない。…わざわざ言うことでもなかったし。だから、未だにわたしが蒼と連絡を取り合っていると思っていたのだろうか)

父親「今回蒼くんには、このために帰国してもらったというのに」

煌莉「き…、帰国…!?」

父親から聞かされた言葉に驚き、飲んでいた水をむせそうになる煌莉。

煌莉(帰国って…なに?突然いなくなったとは思ったけど、…もしかして海外に行ってたの?)

状況が把握できない煌莉に、父親は驚くようなことを口にする。

父親「蒼くんは、アメリカの中高一貫の特殊警護部隊専門の学校に通ってたんだ。そこでの成績は、常にトップクラスのエリートだよ」

父親の言葉に、口がポカンと開く煌莉。

〈しかも、煌莉が驚くのはそれだけではかった。なんと蒼は、その学校に入るために、1人でアメリカへ渡ったのだ〉

父親「蒼くんのお父さんも立派なSPだからな。それに憧れたんじゃないのかな」

煌莉(蒼のお父さんも優秀な要人警護のSPをしている。だから、蒼も同じ道を行くのは不思議なことではないけど――)

神妙な面持ちで、つばをごくりと呑む煌莉。

煌莉(でもそんなこと、普通ならなかなかできることじゃない。――強い意志がないと)



○(回想)煌莉の小学校高学年の頃

同じ帰り道を歩く、煌莉と蒼。
2人の前に、学校の制服を着た中学生が通り過ぎる。

煌莉『いっしょの中学に行こうね』
蒼『当たり前だろ』

小指を絡め、笑顔で約束を交わす煌莉と蒼。

煌莉(約束していたのに、蒼は突然、わたしの前からいなくなってしまった)

(回想終了)



○煌莉の家、煌莉の部屋(夜)

夕食を終え、ベッドでうつ伏せになり、昔のことを思い出す煌莉。

煌莉(だけど、パパの話でようやく理解した。蒼がいなくなったのは、わたしのことを避けるためだと)

横向きになり、大きなテディベアを後ろからギュッと抱きしめる煌莉。

煌莉(もちろん、告白を振って気まずくなったからということもあるだろうけど――。それだけのことで、わざわざ1人でアメリカの学校へなんて行こうとは思わない)

棚の上に飾られていた、幼い頃の煌莉と蒼が写った写真に視線を向ける煌莉。

煌莉(きっと蒼は、わたしの顔を見ると『あのとき』のことを思い出すからだ。なぜならわたしは、蒼にひどいことをしてしまったから…。一生償っても償いきれないほどの、ひどいことを)

ギュッと目をつむる煌莉。
左の脇腹を押さえ、苦しそうに地面に膝をつく小6の蒼の背中を思い出す煌莉。

煌莉(だから、本来ならわたしの顔なんて見たくないはずだ。わたしは、蒼に恨まれたっておかしくないのだから…)

煌莉は、目に涙を浮かべる。



○翌日、煌莉の家の玄関(朝)

玄関で、ローファーを履く煌莉。

煌莉「それじゃあ、いってきます!」

母親「いってらっしゃい」

笑顔で母親に手を振る煌莉。
同じく手を振り返す母親。

煌莉、ドアノブを握りドアを開ける。

煌莉「…うわっ!」

ドアを開けてすぐ、そこに立っていた蒼に驚く煌莉。

SP(セキュリティポリス)のスーツをイメージした、上下とも無地の黒色のブレザーとズボンの制服。
ブルーグレーのシャツに、黒色の無地のネクタイ。
黒の革靴。
黒の革手袋。

煌莉「蒼…!?なんでここに…!?」

蒼「昨日申し上げましたとおり、今日からSP(シークレットパートナー)として、おそばで煌莉様をお守りいたします。行動をともにするのはSPにとって当然のことです」

煌莉「そ…それはそうだけど…」

敬語の蒼に慣れず、煌莉は蒼の顔を直視できずにうつむく。
そして、蒼にエスコートされながらいっしょに黒いセダンの送迎の車に乗り込む。


○送迎の車の中、後部座席(朝)

後部座席に隣同士で座る、煌莉と蒼。

煌莉(本当に、あの蒼だ…)

窓の外に目を向ける蒼を、おそるおそる眺める煌莉。
その煌莉の視線に気づいた蒼が顔を向ける。

蒼「どうかしましたか?」

煌莉「な…!なんでもない…!」

すぐさま、顔を背ける煌莉。

昔は仲のよかった蒼に、名前に『様』をつけられ、敬語で話されることに違和感を感じていた煌莉。
それが気になってしょうがなかった。

しかし、まるで別人のように、表情を緩ませることなく、どこか冷たいその口調に、思わず口ごもってしまう煌莉。

煌莉(わたしは蒼に振られたし、ひどいこともしてしまった。だから、こんなふうになってしまったのかな…)

蒼の顔を見れずに、自分の膝に視線を落とす煌莉。
会話のない気まずい空気が流れる。

しかし煌莉は、蒼が着る聖リリアナ高等学校の制服が気になり、再び視線を蒼に向ける。

煌莉「今日が、転校初日だっけ?…でも、どうして蒼がリリアナに?しかも、わたしのSPだなんて…」

蒼「煌莉様のお父様から直々にご指名いただきましたので」

蒼は淡々と答える。

煌莉(…やっぱり、パパが無理やりに。本当はわたしの顔なんて見たくもないはずなのに、パパに頼まれて仕方なくわたしについてくれているんだ)

再び沈黙する車内。
煌莉は、会話を絞り出す。

煌莉「…聞いたよ!蒼、1人でアメリカの警護専門の学校に通ってたんだってね。しかも、成績優秀だって」

蒼「はい。自分の父も通っていた学校でした。自分もちょうど日本を離れたかったので、いい機会だと思いまして」

蒼のその言葉に、胸がチクッと痛む煌莉。

〈――『日本を離れたかった』〉

煌莉(やっぱり、わたしから離れたくてアメリカへ行ったんだ…)

煌莉の胸の中は複雑だった。

〈ずっと好きだった初恋の幼なじみ。小学校6年生のときに振られて以来、顔を合わせていなかった〉
〈しかし、昨夜久々に再会して大人っぽくなった蒼と、聖リリアナの制服姿がよく似合う蒼に、思わずドキッとしてしまった〉

煌莉(蒼は、強くて勇敢だ。だから、蒼にまた会えて、しかもわたしのSPだなんてうれしいはずなのに…)

〈煌莉には『あのとき』の後ろめたさがあって、蒼の顔をまともに見れないでいた〉

唇をキュッと噛む煌莉。

煌莉(きっと蒼は、わたしなんかといっしょにいたくないはずだ。でも、パパが言うから仕方なく…)

〈蒼との再開を喜びたいのに、素直に喜ぶことができない煌莉だった〉



○学校、昇降口(朝)

ローファーから上靴に履き替え、自分の教室へ向かおうとする煌莉。
すると、蒼も後ろからついてくる。

煌莉「蒼。転校初日だから、先に職員室に行くんじゃないの?職員室ならあっちだよ?」

イブ科、アダム科のそれぞれの教室がある校舎と、職員室などの部屋がある校舎は分かれている。
各科の教室がある校舎は、職員室がある校舎とは真逆だ。

しかし、蒼は煌莉のもとを離れない。

蒼「煌莉様が、無事に教室に到着なさるまでを見届けるのがSPの役目です」

煌莉「そうは言ったって、転校初日からそんなにがんばらなくてもいいのに。それに、蒼がわたしのSPだっていうことは、学校で発表されてからでいいんじゃない?」

蒼「お言葉ですが、そのような考えのSPでは警護対象者を守ることなど到底できません。もし自分がいなくなったあと、煌莉様になにかあってはなりませんから」

煌莉「大げさだよ。だって、ここは学校だよ?なにかあるわけないよ」

蒼の徹底したSPっぷりに、口をポカンと開けて驚く煌莉。

煌莉(初日から張り切って守ってくれようとするのはうれしい。だけど、昇降口から教室へ行くまでの距離。数分しかないわずかな距離のために、そんなに気を配らなくても。そう思っていたんだけど――)



○学校、1階から2階へ上がる階段の踊り場(朝)

?「…煌莉ちゃん」

どこからともなく、煌莉を呼ぶ声がする。
辺りをキョロキョロとする煌莉。

ハッとして煌莉が顔を上げると、階段を上がった2階部分に、煌莉を見下ろすアダム科の制服を着た男子生徒が立っている。

煌莉「中島くん…?」

そこにいたのは、この間まで煌莉のSPを担当してくれていた、アダム科の中島だった。

煌莉「こんなところで、どうしたの?」

そう声をかけてみる煌莉。
しかし、煌莉の問いかけに対して反応がなく、どこかやつれた表情の中島に、違和感を覚える煌莉。

それに加え、煌莉は疑問が浮かぶ。


〈この先にあるのはイブ科の教室のみ。アダム科の教室は別の校舎だ〉
〈ここでアダム科の男子生徒を見かけるとするのなら、イブ科のお嬢様と行動をともにするSPのみだ〉
〈しかし、中島はつい最近煌莉にチェンジ申請をされたところで、まだ新しいお嬢様にはついていないはず〉
〈だから、ここに中島がいるというのが不思議だった〉


煌莉を見下ろす中島。

中島「煌莉ちゃんに聞きたいことがあるんだ」

煌莉「な…なに?」

中島「どうして、オレをチェンジしたの?」

虚ろな目で煌莉を見つめる、中島。
口元は笑っているが、目元は緩んでいない不気味な表情。

中島「オレ、がんばってたよね?煌莉ちゃんのためにがんばってたよね?」

煌莉「…う、うん。中島くんはがんばってくれてたよ…?」

煌莉はこわくなって、一歩後ずさりをする。
しかし、中島はなおもゆっくりと階段を下りてくる。

中島「そうだよね?オレ、すごくがんばってたよね?それなのに、…なんでこんなオレを?オレは、こんなにも煌莉ちゃんのことを想ってたのに…!!」

そう言って、突然煌莉に襲いかかる中島。
突然の中島の行動に、煌莉は声を上げることもできない。

ただただ恐ろしく、体がこわばって身動きが取れない煌莉。

――そのとき。

蒼「確保」

煌莉の後ろにいたはずの蒼が、瞬時に煌莉の前に背を向けて立ち塞がる。
そして、襲いかかってきた中島を目にも止まらぬ速さで押さえつけた。

中島「いでで…!だれだ、お前!?はっ…離せ!」

蒼「離すわけないだろ。煌莉様には、指一本触れさせない」

蒼は片手で中島を押さえつけたまま、もう片方の手を自分の背中へまわす。
後ろから取り出したものは、手錠だった。

そして、あっという間に中島に手錠をかける。
その華麗な早業に、こわかったことも忘れて思わず見入ってしまった煌莉。

この騒動に、周りの生徒たちと集まってくる。

蒼「煌莉様、お怪我はございませんか!?」

中島を押さえつけながら、煌莉のほうへ顔を向ける蒼。

煌莉「う…うんっ、大丈夫」

煌莉にケガがなかったのは、中島が煌莉に触れる前に蒼が守ったからだ。

煌莉(SPをチェンジ申請したことで、中島くんがわたしを逆恨みしているだなんて知らなかったから、…こんなことになるなんて思ってもみなかった)

手錠をされてなおももがく中島を、息を呑みながら見下ろす煌莉。



○(回想)先ほどの昇降口での場面

煌莉『転校初日からそんなにがんばらなくてもいいのに。それに、蒼がわたしのSPだっていうことは、学校で発表されてからでいいんじゃない?』

蒼『お言葉ですが、そのような考えのSPでは警護対象者を守ることなど到底できません。もし自分がいなくなったあと、煌莉様になにかあってはなりませんから』

煌莉『大げさだよ。だって、ここは学校だよ?なにかあるわけないよ』

(回想終了)



○回想前の続き、学校、1階から2階へ上がる階段の踊り場(朝)

煌莉(蒼にはああ言ったけど、もしあそこで本当に蒼が、わたしから離れて職員室へ行ってしまっていたら――。わたし1人だけじゃ、中島くんになにをされたかわからない。蒼がいてくれて…本当によかった)

騒ぎを聞きつけた教師たちがやってきて、中島を連れていく。
煌莉のもとへ駆け寄る蒼。

蒼「ご無事でなによりです」

煌莉の頭をぽんっと優しくなでる蒼。
その瞬間、初めて少しだけ頬が緩む。

その表情を見た煌莉は、思わず胸がキュンとなる。

煌莉(…やばいっ、どうしよう。蒼が初めて笑った…!それに、あんなかっこいいところを見せつけられて、こんな優しい言葉をかけられたら…)

頬がほんのり赤くなる煌莉。
蒼に気づかれないように、顔を逸らす。

煌莉(ドキドキが止まらないよっ…)
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