《マンガシナリオ》最強SPは、愛しい幼なじみを守りたくて仕方がない
第5話 キケンなキャンプ合宿
○次の日、寮、煌莉の部屋(朝)
目をこすりながらベッドから起き上がる煌莉。
ドレッサーへ向かい、鏡に映る虚ろな目の自分を眺める煌莉。
煌莉(寝不足だ…。原因は、昨日の夜の雷。だけど、それだけじゃない)
夜中の雷のときに、蒼に後ろから抱きしめられたことを思い出す煌莉。
○(回想)寮、リビング(夜中)
蒼『これで…少しは落ち着きましたか?』
雷をこわがる煌莉を、後ろから抱きしめる蒼。
(回想終了)
○回想前の続き、寮、煌莉の部屋(朝)
煌莉(蒼おかげで体の震えは止まったけど、そのあと目が冴えてしまって…まったく眠れなかった。なぜなら、わたしは今でも蒼のことが好きだということに気づいてしまったから)
壁にかかっている制服に目を移す煌莉。
〈SP契約では、警護対象者のお嬢様とSPとの恋愛は禁止されている〉
煌莉(絶対に好きになってはいけない相手のはずなのに――。今日から、どんな顔して蒼と会えばいいの…)
○寮、リビング(朝)
パジャマ姿のまま、思いため息をつきながら部屋から出てくる煌莉。
蒼「おはようございます、煌莉様」
その声に驚く煌莉。
部屋を出てすぐ、目の前にはすでに制服に着替えた蒼が立っていた。
いつもとなんら変わりない様子の蒼。
そんな蒼を見て、切なげに眉を下げる煌莉。
煌莉(やっぱり昨日の出来事は、わたしが1人でドキドキしてしまっただけ。蒼にとっては、警護対象者を落ち着かせるためにしたこと。きっと、その相手がわたしじゃなくても同じように――)
洗面所に顔を洗いに行くために、蒼の横を通り過ぎる煌莉。
そんな煌莉を目で追う蒼。
蒼「…煌莉様、体調が優れませんか?」
煌莉「えっ…!?どうして?」
蒼「いつもと様子が違うような気がしまして」
心配そう見つめる蒼に、なんでもないと笑ってみせる煌莉。
煌莉(ただ少し落ち込んでいただけ。…そんなこと、蒼に言えるわけがない)
○学校敷地内、寮から校舎までの道(朝)
昨夜の荒れた天気が嘘のように、雲ひとつない青空。
〈昨日は、お風呂上がりに上の服を着ないで出てくるという抜けているところがあったが、部屋から一歩外へ出ると、蒼は完璧なSPとなる〉
水たまりにはまりそうになる煌莉を引き寄せる蒼。
煌莉が階段を踏み外して転けそうになっても、瞬時にカバーに入る蒼。
〈その紳士的な振る舞いかつ的確な危険予測は、周りもうらやましがるくらい〉
蒼を見て、キャーキャーと言う女子生徒たち。
同じSPたちも思わず見惚れる。
煌莉(でもわたしは、蒼に守られるたびに、ますます意識してしまうっ…)
蒼に抱き寄せられ、顔が赤くなる煌莉。
○ある日、学校、校門付近(朝)
秋晴れの空が広がる。
体操服姿の生徒たちが校門に集まる。
まりあ「晴れてよかったね!」
煌莉「そうだね」
顔を見合わせる煌莉とまりあ。
〈今日は、セレブのお嬢様学校には似つかわしくない1泊2日のキャンプ合宿〉
〈このキャンプ合宿は、汚れるし、日差しに当たるし、虫も多いしで、お嬢様たちの間では非常に不人気な行事〉
〈大半は嫌がるけれど、普段なかなか体験することができない自然の中での生活を通して、新しい発見やペアのSPとの絆を深めることを目的とされている〉
行きたくないと駄々をこねるイブ科のお嬢様たち。
困り果てるアダム科の担当SPたち。
そんな彼女らとは違って、ご機嫌の煌莉とまりあ。
煌莉(わたしは、キャンプなんて一度もしたことがなかったから、今日のキャンプ合宿が楽しみで仕方なかった。まりあもそうだ。キャンプの写真を撮って、ファンのみんなのためにSNSに投稿するのだと意気込んでいた)
決め顔と決めポーズで自撮りをするまりあ。
〈キャンプ場までの移動は、リムジン。1台につき、お嬢様とSPの2組4人ずつで乗り込んでいく〉
煌莉と蒼は、まりあとまりあのSPの服部と同じリムジンに乗る。
○リムジンの中(朝)
寡黙な蒼と違い、おしゃべりな服部。
延々としゃべり続ける服部と、無言の蒼。
蒼は、常に外に気を配って、危険がないかを監視していた。
服部の話に笑みをこぼす煌莉とまりあ。
しかし煌莉は蒼のことも気になって、気づかれないようにチラリと視線を向けていた。
○キャンプ場(昼前)
キャンプ場へ到着。
先生の指示で、1組ずつ1つのテントを建てることに。
だが、テントの建て方がわからず困る生徒たち。
アダム科のSPたちも、そんな教育は受けておらず、説明書を見ながら四苦八苦している様子。
なかなかテントを建てられないSPに、イライラするイブ科のお嬢様たち。
そんな様子をやれやれというふうに眺める煌莉。
煌莉「わたしたちも、お昼までには建てれるようにしたいね」
そう言って、蒼のほうを振り返る煌莉。
そして、思わず口がポカンと開く。
煌莉の目の前には、完成したテントが建っていた。
煌莉「これ…どうしたの!?もしかして、蒼が1人で!?」
煌莉の問いに、鼻にかけることもなくこくんとうなずく蒼。
周りはああでもないここでもないと言いながら、見よう見まねで建て始めているところ。
煌莉「蒼ってなんでもできると思ってたけど、こういうことも得意なんだ…!」
蒼「アウトドアスキルは、あっちの学校では必修科目でしたかや。大抵のことは自分でできます」
呆気にとられる煌莉。
その後、昼食のカレー作り。
野菜やお肉を切って煮込むのはもちろんのこと、飯盒炊さんまで手際よく1人でやってしまう蒼。
他のペアは、お嬢様もSPも野菜の切り方がわからない、そもそも包丁すら握ったことがないという様子。
なんとか全ペアが昼食の用意ができ、食べ始める。
蒼が作ったカレーを口へ運ぶ煌莉。
煌莉「うん!おいしいよ、蒼!」
あまりのおいしさに驚く煌莉。
まりあ「そんなにおいしいの!?あたしにもひと口ちょーだいっ♪」
煌莉の隣に座っていたまりあが、煌莉のカレー皿からスプーンでひと口すくう。
まりあ「んんんんーっ!!めちゃくちゃおいしいんだけど!ウチのと全然違う!」
蒼「スパイスにこだわって、隠し味も入れましたから」
まりあ「蒼くんって、本当にただのSP!?料理もできるとか完璧すぎじゃん!」
まりあが、バシバシと蒼の背中を力強く叩く。
おそらく痛いはずだが、表情ひとつ変えない蒼。
そんな2人の様子を苦笑いを浮かべながら眺めている煌莉。
○キャンプ場、ハイキングコース(昼食後)
昼からは、スタンプラリーが催されていた。
〈スタンプラリーは、裏山の所々に設置されたスタンプ台を見つけ、スタンプを集めてくるというもの。スタンプは、全部で6つ〉
〈こんな子どものお遊びのようなイベント、お嬢様たちが本気になるわけがない。そう思う人が多いだろうが、実は全スタンプを集めて帰ってきたペアには、ご褒美が用意されていた。〉
〈それは、高級グランピング施設への宿泊券。エアコン完備はもちろんのこと、ふかふかのベッドでぐっすりと眠ることができる〉
〈もしスタンプを集めることができなければ、今日は午前中に建てたテントの中で、寝袋に入って朝まで過ごすことになる。だから、お嬢様たちはこのスタンプラリーにかけていた〉
〈しかし、スタンプを集めたからといって、すべてのペアがグランピング施設を利用できるわけではない〉
〈――上位5組。それ以外は、テントで寝泊まりすることになる。だから、お嬢様たちはいつにも増して燃えていた〉
動くことが嫌いなお嬢様たちも準備運動をしたり、SPといっしょに体を伸ばしたりしている。
スタンプラリーがスタート。
ペアのSPを置いていくかの勢いで我先にと急ぐ、イブ科のお嬢様たち。
これまでに見たことがない、必死な顔をしている。
まりあ「みんな、めちゃくちゃ真剣だね〜」
そんな光景を遠目に見ながら、煌莉の隣で笑っているのはまりあ。
煌莉「まりあは、グランピングに興味ないの?」
まりあ「興味ないことないけど、あたし歩くの苦手だし。必死になるくらいなら、べつにテントでいいかなって思ってる」
必死なお嬢様たちの姿を見て、あきれたようにため息をつくまりあ。
まりあはSPの服部にエスコートされて、山の中へ入っていく。
蒼「煌莉様、我々も行きましょうか」
煌莉「う、うん!」
いつもは煌莉のあとをついてくる蒼が、なぜだか今日は煌莉の手を引いく。
蒼に手を握られる。
それだけで、胸がキュンとなってしまう煌莉。
○山の中(昼過ぎ)
スタンプラリーの台紙を眺める煌莉。
そこには、すでに3つのスタンプが押されていた。
煌莉「蒼って、スタンプラリーに興味があったの?こんなに気合い入ってるとは思わなかったよ」
蒼「べつに、そういうつもりはありません。…ただ、あんな小さなテントで煌莉様といっしょに寝るわけにはいきませんので」
それを聞いて少しショックを受けるも、納得する煌莉。
煌莉(…そうか。蒼は、わたしといっしょにいたくないだけなのか。狭いテントだと、嫌でも相手の存在を意識してしまうから)
スタンプラリーの台紙をギュッと握りしめる煌莉。
煌莉(広々としたグランピング施設なら、普段の寮の部屋で過ごす感じとあまり変わらない。そのために、蒼は上位5組に入れるようにがんばっているんだ…)
次のスタンプ台の場所へのヒントを頼りに、あまり苦戦することなくすべてのスタンプ台を見つけ出した蒼。
〈しかし、最後3つのスタンプの場所の難易度は高かった〉
〈1つは、洞窟の中。もう1つは、木の上。最後の1つは滝の裏だった〉
〈どれもお嬢様の足では到底たどり着けないところに設置されていて、SPとの協力が鍵となった〉
煌莉のスタンプラリーの台紙に、最後の1つのスタンプが押される。
煌莉「あとはスタート地点に戻るだけだね」
蒼「はい」
顔を見合わせる煌莉と蒼。
煌莉(蒼ががんばってくれたから、上位5組のうちに入らなきゃ。蒼は、それを望んでいるから)
駆け足でスタート地点を目指す煌莉と蒼。
〈――そのとき〉
落ちていた小石を踏みつけて、バランスを崩す煌莉。
煌莉の口から、「…あっ」と小さな声が漏れる。
それに気づいた前を走っていた蒼が振り返る。
煌莉「そ…蒼っ…!」
思わず、蒼に手を伸ばす煌莉。
しかし、その手をつかむことができない蒼。
煌莉のバランスを崩した体は――、崖から投げ出されるかたちに。
崖に落ちる煌莉。
蒼の必死な顔。
蒼「…煌莉ー!!」
煌莉の名前を呼ぶ悲痛な蒼の叫び声が、山の中にこだまする。
目をこすりながらベッドから起き上がる煌莉。
ドレッサーへ向かい、鏡に映る虚ろな目の自分を眺める煌莉。
煌莉(寝不足だ…。原因は、昨日の夜の雷。だけど、それだけじゃない)
夜中の雷のときに、蒼に後ろから抱きしめられたことを思い出す煌莉。
○(回想)寮、リビング(夜中)
蒼『これで…少しは落ち着きましたか?』
雷をこわがる煌莉を、後ろから抱きしめる蒼。
(回想終了)
○回想前の続き、寮、煌莉の部屋(朝)
煌莉(蒼おかげで体の震えは止まったけど、そのあと目が冴えてしまって…まったく眠れなかった。なぜなら、わたしは今でも蒼のことが好きだということに気づいてしまったから)
壁にかかっている制服に目を移す煌莉。
〈SP契約では、警護対象者のお嬢様とSPとの恋愛は禁止されている〉
煌莉(絶対に好きになってはいけない相手のはずなのに――。今日から、どんな顔して蒼と会えばいいの…)
○寮、リビング(朝)
パジャマ姿のまま、思いため息をつきながら部屋から出てくる煌莉。
蒼「おはようございます、煌莉様」
その声に驚く煌莉。
部屋を出てすぐ、目の前にはすでに制服に着替えた蒼が立っていた。
いつもとなんら変わりない様子の蒼。
そんな蒼を見て、切なげに眉を下げる煌莉。
煌莉(やっぱり昨日の出来事は、わたしが1人でドキドキしてしまっただけ。蒼にとっては、警護対象者を落ち着かせるためにしたこと。きっと、その相手がわたしじゃなくても同じように――)
洗面所に顔を洗いに行くために、蒼の横を通り過ぎる煌莉。
そんな煌莉を目で追う蒼。
蒼「…煌莉様、体調が優れませんか?」
煌莉「えっ…!?どうして?」
蒼「いつもと様子が違うような気がしまして」
心配そう見つめる蒼に、なんでもないと笑ってみせる煌莉。
煌莉(ただ少し落ち込んでいただけ。…そんなこと、蒼に言えるわけがない)
○学校敷地内、寮から校舎までの道(朝)
昨夜の荒れた天気が嘘のように、雲ひとつない青空。
〈昨日は、お風呂上がりに上の服を着ないで出てくるという抜けているところがあったが、部屋から一歩外へ出ると、蒼は完璧なSPとなる〉
水たまりにはまりそうになる煌莉を引き寄せる蒼。
煌莉が階段を踏み外して転けそうになっても、瞬時にカバーに入る蒼。
〈その紳士的な振る舞いかつ的確な危険予測は、周りもうらやましがるくらい〉
蒼を見て、キャーキャーと言う女子生徒たち。
同じSPたちも思わず見惚れる。
煌莉(でもわたしは、蒼に守られるたびに、ますます意識してしまうっ…)
蒼に抱き寄せられ、顔が赤くなる煌莉。
○ある日、学校、校門付近(朝)
秋晴れの空が広がる。
体操服姿の生徒たちが校門に集まる。
まりあ「晴れてよかったね!」
煌莉「そうだね」
顔を見合わせる煌莉とまりあ。
〈今日は、セレブのお嬢様学校には似つかわしくない1泊2日のキャンプ合宿〉
〈このキャンプ合宿は、汚れるし、日差しに当たるし、虫も多いしで、お嬢様たちの間では非常に不人気な行事〉
〈大半は嫌がるけれど、普段なかなか体験することができない自然の中での生活を通して、新しい発見やペアのSPとの絆を深めることを目的とされている〉
行きたくないと駄々をこねるイブ科のお嬢様たち。
困り果てるアダム科の担当SPたち。
そんな彼女らとは違って、ご機嫌の煌莉とまりあ。
煌莉(わたしは、キャンプなんて一度もしたことがなかったから、今日のキャンプ合宿が楽しみで仕方なかった。まりあもそうだ。キャンプの写真を撮って、ファンのみんなのためにSNSに投稿するのだと意気込んでいた)
決め顔と決めポーズで自撮りをするまりあ。
〈キャンプ場までの移動は、リムジン。1台につき、お嬢様とSPの2組4人ずつで乗り込んでいく〉
煌莉と蒼は、まりあとまりあのSPの服部と同じリムジンに乗る。
○リムジンの中(朝)
寡黙な蒼と違い、おしゃべりな服部。
延々としゃべり続ける服部と、無言の蒼。
蒼は、常に外に気を配って、危険がないかを監視していた。
服部の話に笑みをこぼす煌莉とまりあ。
しかし煌莉は蒼のことも気になって、気づかれないようにチラリと視線を向けていた。
○キャンプ場(昼前)
キャンプ場へ到着。
先生の指示で、1組ずつ1つのテントを建てることに。
だが、テントの建て方がわからず困る生徒たち。
アダム科のSPたちも、そんな教育は受けておらず、説明書を見ながら四苦八苦している様子。
なかなかテントを建てられないSPに、イライラするイブ科のお嬢様たち。
そんな様子をやれやれというふうに眺める煌莉。
煌莉「わたしたちも、お昼までには建てれるようにしたいね」
そう言って、蒼のほうを振り返る煌莉。
そして、思わず口がポカンと開く。
煌莉の目の前には、完成したテントが建っていた。
煌莉「これ…どうしたの!?もしかして、蒼が1人で!?」
煌莉の問いに、鼻にかけることもなくこくんとうなずく蒼。
周りはああでもないここでもないと言いながら、見よう見まねで建て始めているところ。
煌莉「蒼ってなんでもできると思ってたけど、こういうことも得意なんだ…!」
蒼「アウトドアスキルは、あっちの学校では必修科目でしたかや。大抵のことは自分でできます」
呆気にとられる煌莉。
その後、昼食のカレー作り。
野菜やお肉を切って煮込むのはもちろんのこと、飯盒炊さんまで手際よく1人でやってしまう蒼。
他のペアは、お嬢様もSPも野菜の切り方がわからない、そもそも包丁すら握ったことがないという様子。
なんとか全ペアが昼食の用意ができ、食べ始める。
蒼が作ったカレーを口へ運ぶ煌莉。
煌莉「うん!おいしいよ、蒼!」
あまりのおいしさに驚く煌莉。
まりあ「そんなにおいしいの!?あたしにもひと口ちょーだいっ♪」
煌莉の隣に座っていたまりあが、煌莉のカレー皿からスプーンでひと口すくう。
まりあ「んんんんーっ!!めちゃくちゃおいしいんだけど!ウチのと全然違う!」
蒼「スパイスにこだわって、隠し味も入れましたから」
まりあ「蒼くんって、本当にただのSP!?料理もできるとか完璧すぎじゃん!」
まりあが、バシバシと蒼の背中を力強く叩く。
おそらく痛いはずだが、表情ひとつ変えない蒼。
そんな2人の様子を苦笑いを浮かべながら眺めている煌莉。
○キャンプ場、ハイキングコース(昼食後)
昼からは、スタンプラリーが催されていた。
〈スタンプラリーは、裏山の所々に設置されたスタンプ台を見つけ、スタンプを集めてくるというもの。スタンプは、全部で6つ〉
〈こんな子どものお遊びのようなイベント、お嬢様たちが本気になるわけがない。そう思う人が多いだろうが、実は全スタンプを集めて帰ってきたペアには、ご褒美が用意されていた。〉
〈それは、高級グランピング施設への宿泊券。エアコン完備はもちろんのこと、ふかふかのベッドでぐっすりと眠ることができる〉
〈もしスタンプを集めることができなければ、今日は午前中に建てたテントの中で、寝袋に入って朝まで過ごすことになる。だから、お嬢様たちはこのスタンプラリーにかけていた〉
〈しかし、スタンプを集めたからといって、すべてのペアがグランピング施設を利用できるわけではない〉
〈――上位5組。それ以外は、テントで寝泊まりすることになる。だから、お嬢様たちはいつにも増して燃えていた〉
動くことが嫌いなお嬢様たちも準備運動をしたり、SPといっしょに体を伸ばしたりしている。
スタンプラリーがスタート。
ペアのSPを置いていくかの勢いで我先にと急ぐ、イブ科のお嬢様たち。
これまでに見たことがない、必死な顔をしている。
まりあ「みんな、めちゃくちゃ真剣だね〜」
そんな光景を遠目に見ながら、煌莉の隣で笑っているのはまりあ。
煌莉「まりあは、グランピングに興味ないの?」
まりあ「興味ないことないけど、あたし歩くの苦手だし。必死になるくらいなら、べつにテントでいいかなって思ってる」
必死なお嬢様たちの姿を見て、あきれたようにため息をつくまりあ。
まりあはSPの服部にエスコートされて、山の中へ入っていく。
蒼「煌莉様、我々も行きましょうか」
煌莉「う、うん!」
いつもは煌莉のあとをついてくる蒼が、なぜだか今日は煌莉の手を引いく。
蒼に手を握られる。
それだけで、胸がキュンとなってしまう煌莉。
○山の中(昼過ぎ)
スタンプラリーの台紙を眺める煌莉。
そこには、すでに3つのスタンプが押されていた。
煌莉「蒼って、スタンプラリーに興味があったの?こんなに気合い入ってるとは思わなかったよ」
蒼「べつに、そういうつもりはありません。…ただ、あんな小さなテントで煌莉様といっしょに寝るわけにはいきませんので」
それを聞いて少しショックを受けるも、納得する煌莉。
煌莉(…そうか。蒼は、わたしといっしょにいたくないだけなのか。狭いテントだと、嫌でも相手の存在を意識してしまうから)
スタンプラリーの台紙をギュッと握りしめる煌莉。
煌莉(広々としたグランピング施設なら、普段の寮の部屋で過ごす感じとあまり変わらない。そのために、蒼は上位5組に入れるようにがんばっているんだ…)
次のスタンプ台の場所へのヒントを頼りに、あまり苦戦することなくすべてのスタンプ台を見つけ出した蒼。
〈しかし、最後3つのスタンプの場所の難易度は高かった〉
〈1つは、洞窟の中。もう1つは、木の上。最後の1つは滝の裏だった〉
〈どれもお嬢様の足では到底たどり着けないところに設置されていて、SPとの協力が鍵となった〉
煌莉のスタンプラリーの台紙に、最後の1つのスタンプが押される。
煌莉「あとはスタート地点に戻るだけだね」
蒼「はい」
顔を見合わせる煌莉と蒼。
煌莉(蒼ががんばってくれたから、上位5組のうちに入らなきゃ。蒼は、それを望んでいるから)
駆け足でスタート地点を目指す煌莉と蒼。
〈――そのとき〉
落ちていた小石を踏みつけて、バランスを崩す煌莉。
煌莉の口から、「…あっ」と小さな声が漏れる。
それに気づいた前を走っていた蒼が振り返る。
煌莉「そ…蒼っ…!」
思わず、蒼に手を伸ばす煌莉。
しかし、その手をつかむことができない蒼。
煌莉のバランスを崩した体は――、崖から投げ出されるかたちに。
崖に落ちる煌莉。
蒼の必死な顔。
蒼「…煌莉ー!!」
煌莉の名前を呼ぶ悲痛な蒼の叫び声が、山の中にこだまする。