【短】だからもう、俺にちょうだいって。
いつも賑やかな結多くんが真面目な顔で放つと、たったそれだけで“彼は本気なんだ”と、誰もが悟る。
そのあと、ホームルームが始まったとき。
マナーモードにしてあるスマートフォンが震えた。
そっとバレないように開いてみれば、《大好きだよ、このみちゃん》と、彼らしいメッセージがひとつ。
「結多。悪いが数学のノート、このあと全員分あつめて俺のとこ持ってきてくれ」
それから4限の授業が終わる手前、教師からのお願いがまっすぐ結多くんのもとへ。
「せんせい、ぼくは今日のお昼休みだけは譲れません」
「おまえ日直だろ。頼むわ」
「むりです。ぼくは今日に関しては固い決意なのです」
それでも断ってしまった結多くん。
真顔で首をふるふると横に振って、ほんの少しの妥協も許さない姿勢だった。