あさまだき日向葵
「ダメだって、フェニックス。ごめん。それ、食べ物だった?」

塔ヶ崎くんが、フェニックスが何もしてないか紙袋を覗き込んだ。
わあ、見られた!それに、不審な顔!

「……それ!クッキー……なんだけど、焼いて……………….」
「え? 最後全然聞こえない。何?」
「焼いたの!」
「……聡子が?」
「………………そう」

「俺に?」
「………………そう」
「食っていいの?」
「そう!二色作ったんだけど、ココアが純ココアで作らないといけないの知らなくて、ミルクココアで作っちゃって、ふやけた色になっちゃって。白い方はちょっと焦げて、だから結局全部同じ色になっちゃって……」

なっちゃって、なっちゃって、なっちゃって。
よく持ってきたよね、私。恥ずかしくてそっちの方を見れない。せめてラッピングくらい用意しろって……

「へぇ、旨い。ありがと」
「いや、無理して食べなく……ても」

顔を上げると、塔ヶ崎くんはすごい嬉しそうな顔をしていて、無理してないと思う。
目が合うと、にこっと笑う。

「嬉しい」
少し顔をかたむけてそう言ってくれた。
「うん」

塔ヶ崎くんは、こんな人、だったな。ちゃんと、受け取ってくれる。だから私もほんの少しだけ、持ってきて良かったなって思った。

次、次は……もうちょっと旨く作って、ラッピングもちゃんとする。


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