あさまだき日向葵
パーシモンがタッと椅子から下りる。

ナォー。
愛らしく鳴いて、塔ヶ崎くんが撫でると、目を細める。満足したのか優雅に長いしっぽを振って歩いていった。それを塔ヶ崎くんが優しい目で追う。
あの彼女の背中を追った時と重なる。
綺麗。オレンジの毛色が彼女みたい。

塔ヶ崎くんはこの子を見る度、彼女を思い出すのかな?私さえ思い出すのだから。

「言って、思ってること。俺も言うから。正直に言う。だから、ちゃんと信じて」

『信じて』って言われたら信じるしかない。
言葉を信じるしかない。

でも、何だろうな。言葉じゃなくて、塔ヶ崎くんの彼女に会った時に力が入った手とか、視線を掠めたピアスとか、目で追った背中とか……
あの人の前では私の事を“彼女”にしたこととか……そんなのが『何とも思ってない』って言葉を信じられなくしている。
《《言葉》》じゃなくて、私が、《《見て》》、《《感じた》》こと。

信じられないっていうか、塔ヶ崎くんが無理にそう思っているんじゃないかなって、不安になる。

「聡子……?」
「向こうに彼氏がいなかったら、どうしたの?」

どうしても言えなかった。あの人は彼氏じゃないんだよって。
私は、ずるいのかもしれない。あの人が彼氏だから、塔ヶ崎くんは諦めたのかもしれない、なんて……。

「いなくても、変わらない。俺の横には聡子がいたし」

私の、ため?
それとも……私の……《《せい》》なのかもしれない。
< 116 / 186 >

この作品をシェア

pagetop