あさまだき日向葵

13.単純で良かった

【side 塔ヶ崎】
俯くと、髪がさらりと流れた。
それを慣れた手つきで耳にかける。

一連の動きを間近で見ていた。女子の髪って何でこんなに綺麗なんだろ。
ふっと鼻にその匂いが届く。清潔そうな髪の香り。一度も染めたことがないだろうつやつやした黒髪。

触っちゃ、ダメだよな。
シャンプー何使ってんだろ。聞いたところで俺のねこっ毛はサラサラにはならないだろうけど。

俺の目の前には、相変わらず佐鳥聡子がいる。
俺のことを好きだって言い放っておいて涼しい顔で放置する、そんな佐鳥聡子の髪に見とれてた。

好きなのに付き合わない、謎。
聡子が自分の気持ちに戸惑ってるのだとしたら歩幅を合わせるしかない。でも、

「夏休みに男子と二人とか、私らしくないないよ」
「……聡子、彼氏いたことないの?」
「ないよ。あるわけないでしょ」
「……いや、別にいてもおかしくないだろ。んじゃ、好きなヤツは?」
「え? だから、塔ヶ崎くんでしょ?」

俺だって、相当戸惑ってる。初めてのパターンだな。面と向かって真顔でこう言う。

付き合ったことがなくて、男子と二人で出掛けたことすらない。
真っ白な雪に、初めて付ける足跡みたいな気持ち。それ、俺でいいのかな?俺なのが、嬉しいと思う。

俺だって、好き。
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