あさまだき日向葵
──聡子の塾に行くまでに寄った商業ビルで、奇妙な動きをしている知り合いを見つけて声を掛けた。

俺を見ると、泣きそうな顔で
「あ、会いたかったあ!」と、言ったのは松下陽葵(ひまり)

二言目には
「助けて、塔ヶ崎くーん!」と言った。
これ、のび太がドラえもんに言うセリフだよな?

簡単に言うと、昂良を好きだった松下は陽太を好きになったらしい。
へぇ、いいじゃん。陽太喜ぶじゃん。つか、昂良も喜ぶだろ。陽太の想い実ってニヤッてしそう。あいつ、不気味だから。
松下の良い方への心変わり。無意味かと思ってたこのペア企画、ある意味良かったじゃん。

だけど、松下は陽太は他の女子を好きだって言った。
んなこたあ、ないだろ。陽太なんて彼女出来たら聞いてもないのに、いちいち知らせてくるようなヤツだぞ?
好きな女に面と向かって、みんなの前で『大好き』なんて言うようなヤツだぞ?
まあ、口に出さなくても漏れるタイプではある。感情がうるせータイプ。

……心変わりなあ。まさか。

松下と別れると、陽太に直ぐメッセージしといた。
『松下、男といたぞ』って。俺だけど。
『昂良じゃなくて?』って《《すぐに》》返信があって、俺だから
『違う』って送った。

全然、心変わりしてねーじゃん。文字からも動揺が漏れてる。

毎日会ってるなら、ご自分たちで何とかしてくださぁい。
『大好き』とか、言えよ、いつも通り。何やってんだよ。

……いや、でも、何だ……良かったなあ。
そうか、そうか、松下がねえ。俺もちょっとニヤついてしまって慌てて顔を戻す。
< 130 / 186 >

この作品をシェア

pagetop