あさまだき日向葵
「これ、誰のために張り切ったの?」

あの日、見てしまってから気になってた。先生とのこと。

「先生、若いんだよ。まだ大学生なの。恋愛対象に全然入……る」
聡子の口からその言葉が出た。
塾の先生が大学生なら余裕で圏内じゃん。大人に憧れる時期。俺とめぐ美さんはうまくいかなかったけど、男女が逆ならうまく行くかもしれない。


「まだ俺といたい?」
俺がそう聞くと、
「……うん」
聡子は頷いた。

「そっか。じゃあ、俺も……信じることにする」

俺が繋ぐ手を嫌がらない。
嫌じゃないから。全部が初めての聡子にとって、この戸惑いを嫌じゃないからって恋と勘違いしてるんじゃないか?

俺と会った時とは、違う服装(猫の毛がつくからとは言ったけど)
その人を見上げて上気する頬。

俺のこと好きだって言った聡子の《《言葉》》を疑ってるじゃない。
聡子を《《見て》》たからこそ、気づく、《《感じた》》微かな表情の違い。

俺と過ごす、初めての事に、恋だって勘違いしたんじゃないかって、聡子に言ったらどうなるんだろうか。夢から覚めるんじゃないか?

ただ嫌じゃないから。そんな、理由が、こっから先に進ませないんじゃないか?

好きなら、付き合いたいだろう。そう思わないのは……好き、じゃなくて、嫌じゃない程度の気持ちだからだって。
言ったら気づくのだろうか。

それを教えてやれない俺は、ずるい。
真っ白な雪に俺がつけた足跡は、誰かの足跡で消されていく。

でも、聡子が俺を好きだって言うなら……
俺も……信じることにする。そう思いたい。


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