あさまだき日向葵
「……夜? 出にくいって?」
「あ、へへ。塾の帰りに友達と寄り道するようになったから……」

「ふっ、そっか。聡子らしくないこと、出来てんじゃん」
「……うん」
「変わるもんだな」

嬉しそうに、でも少し寂しそうに塔ヶ崎くんはそう言った。
「塔ヶ崎くんのおかげだよ、楽しいこと、いっぱい教えてくれたし、勇気もくれた」
「俺? そっかなあ」

心理面でのね、変化が凄かったんだよ。
他人から見られることも、他人にも興味を持てたし、変わろうって思えたから。

「……そう言えば、塔ヶ崎くんって進路どうするの? 何となくなりたいの、医者じゃない気がしてたんだけど、やっぱり医学部なの?」

直接そうだとも、そうじゃないとも聞いたことがなかった。
塔ヶ崎くんの目が、ふっとピアノの方へ動いた。グランドピアノのある家なんて初めて見たって思ったなあ。

塔ヶ崎くんは立ち上がると、ピアノの方へ進んだ。すっかり寛いでるトマトとプチに断りを入れると、屋根を持ち上げ、突上棒を立てた。
「弾けるの!?」
「まあね」

馴れた手つきで鍵盤の上に指を滑らせた。
……感動してしまう。長い指が音を奏でる。

綺麗なメロディに合わせて、声を出す。
……歌えるんだ。すごい。

ピタリ手を止めると、私の方を向いてにっこり笑った。
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