あさまだき日向葵
「それが、すごいと思った。ちなみに空港着いたら救急車来てて、親父もちょっと説明してた。それから俺に『おい! あのアナウンス何て言ったか聞こえたか?』ってすっごいテンション上がってんの。『お客様の中にお医者さんか《《医学部の学生はいませんか》》って言ったぞ!』って。日本では絶対に学生なんて言わないだろ? 向こうでは学生でもそれくらい知識があって信用されてるってことなんだ。『すごくないか!俺たち(日本の医学生)も負けてられないな!』って言われて、気づいたら『そうだな』って言ってたよ」
「……すごい。格好いい」
「うん、俺、医学部にいきたい。医者の息子だから、医者になる。それでもいっか。って」
「誰だって、親からは影響受けるよ。きっかけなんてさ……」

「うん」
塔ヶ崎くんが、ピアノの鍵盤を一つ押す。
綺麗な色が響く。

「だからさ、聡子。聡子の夢は、俺が引き受けるから、かえっこ、しよう」
「……え……」
かえっこ?私もお医者さんになるのに?

「……うん。聡子、医者になりたくないだろ?」
塔ヶ崎くんが、何でそんなこと言ったのかわからない。

「ああ、ああ」
そう言って、眉を下げた彼の顔が滲んでいって、そっと抱き締められるまで、私は自分が泣いてるって、気がつかなかった。

< 146 / 186 >

この作品をシェア

pagetop