あさまだき日向葵
塔ヶ崎くんが、そっと離れると私の顔を心配そうに見る。

「大丈夫……?」
「お歌、歌ってくれたら元気でる」
「……子どもかよ」

って、笑われたけれど、歌ってくれた。だから、元気出た。

優しい歌、優しい声だった。
「何か……この歌……懐かしい。何の歌だっけ……」
「さあ」

って、教えてくれなかった。

「さっき、流したから教えない」
「何を?」
「さあ」

何か結局色々不明のまま。
でもすごく心が楽になった。

「あ、ねえ、『かえっこ』っておかしくない? 私、ピアノも弾けないよ」
「……そういや、そうだな。はは、せっかく格好つけたのに、間違ってんじゃん」
そう言ってわらったけど、私は塔ヶ崎くんが引き受けてくれて嬉しかった。

「オムライスの時も、かえっこしてくれたよね」
「あー、あの時も流したよね」
「……何を?」
「いいや、また行こう」
「うん、行こう! キノコとビーフシチューの、食べるの」

そう言うと、塔ヶ崎くんは嬉しそうに笑った。

響板の中にプチが入ろうとするから、慌てて屋根を閉めていた。

「お前ら来てからピアノはすっかりベッドだよ」
と、ぐちぐち言っていた。

──そこに猫がいて、たくさんの子どもがいて、そこで塔ヶ崎くんが歌ってる。そんな風景が浮かび、ハッと我に返った。
なんだろう、今の。妄想かなあ。
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