あさまだき日向葵
伸ばされた手が、私の前髪を撫でる。
「少し、伸びたな」
「え……うん」

塔ヶ崎くんも、前髪伸びた。
手を離すと、ふっと笑う。優しい、綺麗な目が、一瞬、苦しそうに歪んだ。

「聡子、俺のこと、好き?」
「え……うん、好き」

突然でびっくりしたけど、素直に頷いた。好き。はっきりとそれは言える。

「俺も、聡子が好きだよ」
そうかなって期待してたけれど、本人から聞くと、全然違う。
それより、塔ヶ崎くんの顔から、とても幸せそうには感じなくて……

「……聡子、戸惑ってるんじゃないかなって思う。初めてだろ? 何もかも」
「そうだよ、戸惑ってるよ。わからないもん。私は塔ヶ崎くんみたいに経験があるわけじゃないから」
過去は変えられないのに、未だに嫉妬してしまう。そんな言い方されたら……さ。

「……もしかして、その戸惑いを好きと勘違いしてるんじゃないかなって。ごめん……怖くて、ずっと……言えなかった」
「勘違い……?」

この気持ちが勘違いなわけない。
そんなわけないよ。こんなに、胸が痛くて苦しくて幸せになるのは、塔ヶ崎くんしかいない。

「違う! 勘違いじゃない」
私がそう言っても、塔ヶ崎くんは寂しそうに笑うだけだった。

「ねぇ、言って、思ってること。私の言うこと、ちゃんと信じて?『信じることにする』って言ったよね、塔ヶ崎くん!」

塔ヶ崎くんが、すぅと息を吸った。何かを決心するように。
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