あさまだき日向葵
家の前まで到着すると、鳴らしていないインターホンから
『入って』と塔ヶ崎くんの声が聞こえた。
なるほど、カメラがついているのか。
広い庭は昨日より蝉がうるさい。木もあるから結構な数いそうだ。

「おはよう、庭見るの好きだね」
塔ヶ崎くんの声が聞こえた。
玄関ドアにもたれて笑ってる。

ドキンと1度大きく心臓が跳ねる。ちょっとどうしていいかわからなくて庭で時間を取っていたのもある。

「蝉が……」
「ああ、うん。昨日までは“蝉が鳴いてる、梅雨明けしたら、一気に夏が来たなあ”って感じで趣深かったけど。今日から一気に“うっせえ、蝉!”って感じだよな」
「あはは! わかる、その感じ。1~2匹だとね、夏の始まりの合図みたいで情緒あるけど、こうなると雑音だよねえ。もう少しすると、馴れちゃって、今度は鳴いてても意識しなくなるのよね。夏の終わりには、“あれ? いつの間に蝉いなくなったんだろう”って思うの」
「子供の頃は庭でよく蝉取ったわ。地面めっちゃ穴開いてるだろ? あれ蝉出てきたあと。ここ生まれここ育ちの蝉多いぞ」

……普通は公園で蝉取るものだよ、塔ヶ崎くん。

「穴?」
「そうそう、その辺とか」
塔ヶ崎くんの指差したところに1円玉くらいの穴があった。見渡すとあちこちにある。
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