あさまだき日向葵
「ほんとだ! ねぇ、早起きしたら出てくるとこ見られるんじゃない? 脱け殻じゃないあの形の!」
「……蝉好きなの?」
ふと顔を見られて、お互い中腰で顔を付き合わせる。
汗。汗かいてるんだった!慌てて背筋を伸ばした。

「いや、好きじゃない。虫は苦手。でもそんな滅多に見られないシーンは興味ある」
塔ヶ崎くんの視線が、私の目から額に移った。
私は慌ててハンカチを出すと視線の先にあった額の汗を押さえた。

「ごめん、暑かったよな。中入ろう、クーラーつけてるから」
「う、うん」

今日は、玄関で「おじゃまします」と言うことに成功した。
上がる前に
「こ、これ、良かったら」と紙袋を差し出すところまでも上手くいった。

「いいのに。俺都合で来てもらってるわけだし。でも、ありがとう。いただくね」
「でも、昨日もお昼ご飯までごちそうになってしまったので」

塔ヶ崎くんは気にする素振りもなく、キッチンへと向かう。
「コーヒー、アイスティー、オレンジジュース、体に良さそうな酢。……何だコレ? ライスミルク? 何がいい?」
「アイスティーお願いします」
そう言うと、昨日と同じグラスに入ったアイスティーが目の前に置かれた。
今日は
「レモン、ミルク」とは聞かれずに、ストレートだ。
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