あさまだき日向葵
「そうそう、別に聡子じゃなくても……」
「うんうん」
「いや、聡子じゃないとダメだろ?」

拗ねる、どころではなく、怒って……る?

「え、日本語おかしいよ、塔ヶ崎くん」
「聡子と思い出作るのがこの夏の目的だろ?」
「あっ、そうか。思い出って何するの?」
「……聡子の『自分らしくないこと』も、まだ決まってない。それ、一緒にやってみたらどっちにも思い出になるんじゃないのか?」

私の、やってみたい私らしくないこと……。

「……つまらない授業、サボってみたい!」
思わず大きな声が出てしまって、トマト親子がすごい顔でこちらを見た。

「……夏休みに言う? 新学期な、それ」
「……はい」

本当だ。バカだ。でも考えてみたらこの時間だって私には、私らしくないことだ。

「夏休みに男子と二人とか、私らしくないないよ」
「……聡子、彼氏いたことないの?」
「ないよ。あるわけないでしょ」
何を聞くんだ、この人は。

「……いや、別にいてもおかしくないだろ。んじゃ、好きなヤツは?」
「え? だから、塔ヶ崎くんでしょ?」
何を聞くんだ、この人は。

「……」
「……」

「え、や、はあ、ちょっと……薬! 薬だわ。フェニックス」

塔ヶ崎くんは、フェニックスを抱いたままキッチンへと言ってしまった。
< 61 / 186 >

この作品をシェア

pagetop