あさまだき日向葵
「……どした? 人いっぱいで疲れた?」
「私、塔ヶ崎くんと花火大会来たかった」
「……うん? 来てるけど……。他のってこと?」
「違う。去年とか、その前とか、その前の……」

何を言ってるんだろ。飲み込んだ意味ない。

「そんな遡ると家族と行ったんじゃないかあ。毎年誰かしら場所取りに来てるからさ。じぃちゃんは協賛してるから来賓で見てたり……」
俯いた顔を少し塔ヶ崎くんに向けると

「家族以外と来たこともある?」
寄せばいいのに、そんなのあるに決まってる。

「……過去は、変えられないしな」
わかってるのに、そこに落ち込んで、せっかくのお祭りなのに……。

「うん、知ってる。わかってるのになあ、おかしいの。誰とも来たことないって嘘ついてもいいのに」
「その場しのぎで嘘ついても仕方がないだろ? 過去は変えられない。友達とグループで来たこともあるし、当時の彼女と来たこともある」
「だよね」
友達とすら来たことがない私の方が珍しいんだよね。

「……過去は変えられないけど、次の約束は出来る。なあ、来年も一緒に来よう。バッチバチの受験生だけど1日くらいなんとかなるか。無理なら再来年。どう?」

顔を上げると、空は暗くなりかけて、ますます人が多くなってきた。
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