あさまだき日向葵
好きな人と見たい、そんなイベントなのだろう。この“花火大会”ってものは。

空になったたこ焼きと焼きそばの容器を、塔ヶ崎くんがまとめて片付けてくれる。私と、塔ヶ崎くんの間に置かれていた物。

容器が無くなった分、少し開いた隙間を塔ヶ崎くんが私の方へ詰める。
「はい、ウェットティッシュ。口、ソースついてる」
「あ、ありがとう」

とんでもなく恥ずかしい。私は最近とても身なりが気になるのだ。それなのに、ソースついてるだなんて。ぱぱっと拭くと、そのウェットティッシュを私の手から取り、ゴミに袋に入れてくれる。恥ずかしい。

「もうすぐ、始まる」
そう言って、空の花火が上がるだろう場所へと顔を上げた。そんな塔ヶ崎くんの横顔がとても近い場所にあって、急に距離を意識する。塔ヶ崎くんのシャンプーの匂い。仕舞われてただろう、浴衣の匂い。

「……ほら、また見てる」
言われて、ぱっと顔を前に戻した。
それなのに塔ヶ崎くんは私の方を向いたまま。ちらり、横へ目だけ向けると、この距離でふっと笑顔を向けられた。この距離で笑えるとかすごい。恥ずかしくて無理。

「……確かにね」
今度は塔ヶ崎くんがそう言って、私が
「んー?」って聞いた。

「二人でこんなとこ来るってことは、俺たちもそうだもんね」

《《そう》》とは……。
どっちか、もしくは両方にそんな気があるのかも……しれないってこと。
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