あさまだき日向葵
塔ヶ崎くんは何も言わず、軽く首をすくめて見せた。
“彼女じゃないです”って私が言うべきなんだろうか。塔ヶ崎くんの繋いだ手に少し力が入った。
“何も言うな”ってことなのかな?

「行こう」
他の女の子が言って、塔ヶ崎くんはヒラヒラ手を振った。

「ばいばい」背を向ける最後に私へ視線が一瞬投げられた。

……あの子、たぶん塔ヶ崎くんのこと……好きだ。
ドキンと心臓が、痛くなって……楽しかった気持ちがしぼんでいった。

「……何で、あの子じゃ……」
その子の声が雑踏に消えて行った。

ドンッドンッ
再び花火が上がった。

「終わりじゃなかったの?」
「送り花火……だな」

そっか、終わりの合図か。何か夢から覚めた……というか、起こされた気がした。

「そろそろ行こう」
塔ヶ崎くんの手を離すと、立ち上がった。
こんなに人がたくさんいるんだから……また誰かに会うかもしれない。塔ヶ崎くんは知り合いが多いから。

『あの子じゃ……』
の、後は、“不釣り合い”だろうか“納得いかない”だろうか……それとも……
“彼女なわけないでしょう” だったのかな?

暑いな。まだ、随分暑い。汗をかいた首に張り付いた髪が、妙に不快にさせた。

彼女の華やかな浴衣を見た後では、気に入ってたこの浴衣が見劣りする気がして、ひどく恥ずかしい。


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