あさまだき日向葵
一向に引かない人の波に、どれだけの人手なのだろう。
「言っとくけど、『はぐれたらダメだから』でも『浴衣だと歩きにくいから』でもないからな」
「はは、さっきも聞いたよ」
「うん、でもわかってなさそうだから、もう1回」

わかってなさそう?私が?頭は良い方なんだけど。失礼しちゃう。

「ええ、バカにしないでよ、わかってる。この人ごみではぐれないように、こけないように、じゃないんでしょ?」

そのままの意味だ。子どもの頃、両親と来た時も迷子になったら大変って言われた。慣れない下駄にこけないようにしっかり手を握られた。だから、意味はわかる。

「うん、じゃない」

あれ? 『じゃない』って否定形、だ。
その二つの理由、ではない。じゃあ……

「どうして繋ぐの?」
「……繋ぎたいから」
「ええ、何それ。答えになってないじゃない。子どもじゃないんだから」
「うん、子どもじゃない」

子ども……『じゃない』
「どうして、繋ぎたいの?」
「……ほら、わかってない」
そう言われて、かあっと顔が熱くなった。

「……だから、どうしてって聞いてる」
「バカにしてないから、自分で考えて」

そう言うと、繋いだ手をちょっと掲げて、ふっと笑う。からかうような、伺うような笑顔。自分で考えてって言われても……

……心臓……壊れそう。
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