あさまだき日向葵
情緒のないゴミの山に、最後は無理に食べたりんごの芯が刺さった棒と、かき氷の容器を捨てた。

蒸し暑い空気と、花火など見てなかっただろうサラリーマンは日常の中にいて、この混雑に機嫌が悪い。

……あの人に会わなければ、こんなことに気がつかないくらい浮かれていただろう。
あの人が、塔ヶ崎くんの、好きな人でなければ……。
塔ヶ崎くんの目が、あの人の背中を追わなければ……。

「やっぱ、こんだけ人が多いと知り合いにも会うよな」
「私は、誰にも会ってないよ」

私の知り合いには、会っていない。塔ヶ崎くんの知り合いに会っただけだ。

「さっきの団体は同じ高校の子だよ」
「……そうなんだ」

私は知らない人だったし、向こうも私を知らなさそうだった。私が向こうを知らないのは大して他人に興味がないからだけど、向こうが私を知らないのは……私が目立たないからだろう。塔ヶ崎くんと一緒にいるのが不思議なくらい、目立たないからだ。

あの人なら、あんなこと言われなかったんだろうな。

「……聡子」
いつの間に俯いてしまっていて、塔ヶ崎くんが覗きこむ。

「あ、ごめん」
「……わかったよな、あの人……」
「え?」

塔ヶ崎くんが、あの人を好きなんじゃないかなって思ったけど、その表情から、やっぱりそうなんだ。
< 86 / 186 >

この作品をシェア

pagetop