あさまだき日向葵
「あ! 聡子」
そう声を掛けてきたのは、中学の時の友達、神崎美紘(みひろ)だ。

「久しぶりだね」
「そうだよ、聡子が自習室に全然こないんじゃん。学校の授業についていけなくて塾に来てる私と、聡子じゃあクラスも違うし」
……そっか。そうだった。
「昼からはほぼ毎日いるけどね」
「……さすが。私は週2コマだけだよ」

そこから、お互いの近況なんかを話した。ちょうど集中も出来ていなかったし、気持ちも明るくなった。
そろそろ自習室に戻ろうかというタイミングでガヤガヤと数人の女子が入れ替わりで入ろうとして来た。

「……あ」
私とすれ違う瞬間、そのうちの一人がそう声を出した。パッとその子の顔を見ると、見たことあるような、ないような……。知り合いではなかったのでそのまま通り過ぎた。

「撰くんと、花火大会に行ってた子だ」
明らかに私を指した言葉に足を止めて振り返った。

「そうだよね?」
「うん」

とても好意的だとは言えない目に、気持ちが沈む。

「ねえ、付き合ってるの?」
「……付き合ってないよ、たぶん」
「たぶん? じゃあ、何で手繋いでたの?」

何で?そんなの、決まってる。
「繋ぎたいから」
私がそう言うと、目に苛立ちを含ませた。

「花火大会どっちから誘ったの?」
「……あのさあ、私、あなたのこと誰かも知らないのにどうしてそんな説明しなきゃならないの?」

美紘がハラハラした顔で私たちを見ているのが目に入った。
でも、私だって苛立っていた。
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