公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
 窓を見ると、ロバートがこちらに向って頭を下げている。その向こう側では、執事のモーリスや数名のメイドたちが並んで頭を下げている。

 ご主人が出かけるのですもの。お見送りは当然よね。

 そんなふうに思いながら、視線を窓外に彷徨わせる。

 視線を馬車内に戻さなければならないのに。その勇気がない。

 うううっ。どうすればいいの、わたし?

 こんなに困ったことは久しぶりである。というか、これまでの人生の中でこれほど困ったことはあっただろうか。

 いろいろな目にあったりやらかしてしまったりやらかされてしまったことはある。だけど、これほど困ったことはすぐには思い出せそうにない。

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